自分の歯を再利用?”歯の銀行”ことティースバンクの可能性~ちぃ先生の手記第33回~
広島大学発で事業化した”歯の銀行”
一般の方であれば、「歯の冷凍保存」なんて聞いたこともないでしょうが、私が歯科衛生士の専門学校に通っていたころには、すでに知られていたサービスです。この画期的なアイデアの発祥と言われている広島大学には、抜いた歯を保存する「歯の銀行」があり、およそ1,700本の歯が冷凍保管されているそうです。 歯の細胞が死なないように、特殊な冷凍庫でなんと氷点下140度という低温で保管されます。
気になる価格に関しては20年間預ける場合、1本15万円程度で、移植にはさらに7万円程度かかります。20年で15万なので1年で7,500円程度ですかね。単にかかる費用だけを見ると高いと思いますが、補綴治療と比べれば意外とリーズナブルと思われた方も多いのではないでしょうか。
たとえば、インプラントと比べて自分の歯牙を利用するため、噛み心地や色調が自然で、違和感が少ないことが特徴だそうです。近年では大学だけでの治療ではなく、ティースバンクという事業として企業が冷凍保存→移植を行うというパターンもあります。
抜いた「親知らず」が再利用できる!?移植の選択肢
ティースバンクの登場により、従来までは破棄されていた抜いた歯の再利用に注目が集まっています。中でも歯を抜く可能性が高く、再利用しやすいと考えられているのが「親知らず」です。ちなみに親知らずに関しては、多くの方が「絶対に抜かなくてはならない」と誤った認識をしている傾向にあります。
親知らずの抜歯は、実は絶対ではありません。完全埋伏という骨の中で横になって生えてきて、手前の歯を圧迫して歯根吸収や痛みなどのトラブルが発生している状態や、半埋伏という完全埋伏よりは生えてきているが、奥歯なので歯磨きができず虫歯や歯周病になってしまって痛いなど”明確なトラブル”が現れてから抜歯しても遅くはないのです。
そして、今若い女の子たちの間で実しやかに話されているのが「親知らずを抜くと小顔になる」という噂ですが、まったくのデマです。みなさんが気にされるエラなどは下顎角とよばれる骨の突起物なので、歯を支えている歯槽骨とは関係のない場所であり、抜歯しても影響がないと考えられます。私自身も親知らずは将来の移植のために残しているのですが、移植としての再利用という考え方が広まればいいなと思います。
高齢でも噛める状態をキープすることが大切
歯の移植と言っても、20~30代の方の多くはその必要はないでしょう。必要になるタイミングとしては、高齢者、特に60歳ごろが多いでしょう。その時期は体調を崩す方が多くなってきます。特にお口の中のトラブルとして顕著なのが歯周病で、歯を残すことができず抜歯してしまうケースが増えてきます。インプラントは高額で、インプラント体を埋入できるだけの骨が残っておらず、埋入できないケースすらあると聞きます。
ブリッジを入れられない場合、入れ歯を入れることになりますが、慣れるまでは違和感があり、食事の際の噛み応えや味に影響が出るほか、しゃべりにくくなるという欠点があります。入れ歯では得られない「自分の歯で噛んでいる感覚」を得ることができる利点がある、抜いた歯を冷凍保存しておいて移植する「自家歯牙移植」はこれからの高齢者医療のQOLを大きく向上させるかもしれませんね。
冷凍保存と聞くとSF近未来なイメージもあるかもしれませんが、卵子の冷凍保存などは今や一般的になってきましたし、そもそも自家歯牙移植は、健康保険も使えるほど一般的なものだったので、矯正治療などで抜歯した歯を将来必要になった時に移植できるということを、もっと多くの人が知ってくれれば良いなと思います。
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【ライター紹介】 ちぃ先生
歯科衛生士の有資格者でありながら多くの女性メディアで活躍中のライター・編集者。現在は女性向けの美容メディアやJJなどのファッション誌などに寄稿している。コスメコンシェルジュの資格を持ち、コスメ・美容への造詣が深い。また、サッカー好きが高じてアスリートフードマイスターの資格も取得している。美容と健康に高い関心と知識を持っており、Ha・no・neでは利用者のQOLの向上を目指し、ためになる情報を発信していきたいと意気込んでいる。
・ちぃ先生の手記まとめPART1 ~美容ライター兼歯科衛生士の知恵袋~
・ちぃ先生の手記まとめPART2 ~美容テク&お口の健康講座~
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