「先生、ご飯が食べられるようになったよ」――訪問歯科が施設にもたらす変化

2026.10.09 interview歯科タウン編集部

医科歯科連携特集企画 訪問歯科特集② 施設インタビュー

毎食後の歯磨きと義歯洗浄――現場が向き合う口腔ケアの難しさ

庄和和合では、入居者一人ひとりの状態に合わせて毎食後の歯磨きと義歯の洗浄を行っています。自分で磨ける方には道具をセッティングし、難しい方には職員が介助にあたります。しかし、その一つひとつが決して簡単な作業ではないと根本さんは話します。

「高齢者の方って本当に食物残渣が多いんです。なので、それをしっかりきれいにするのはすごく大変です。中には拒否する方もいます。認知症が進んでいて「お口を開けてください」と言ってもうまく開けられない方もいますし、ウェットティッシュで拭おうとして職員の指を噛んでしまう方もいて、難しいケースは本当に様々です。」 

何をされているか理解できない入居者もいる中で、職員は短い言葉を繰り返しながら、時間をかけて丁寧に声をかけているといいます。「『お口開けてください』『きれいにするよ』と、何度もゆっくり、優しく声をかけながらケアをしています」と根本さん。日々の積み重ねが、入居者の安心につながっています。


「先生が教えてくれる」――訪問歯科が支えるスタッフの学び

訪問歯科の様子

庄和和合には、春日部デンタルクリニックの歯科医師と歯科衛生士が継続的に訪問しています。頻度は入居者の状態によって異なり、隔週の方もいれば、状態が思わしくない方は毎週診察を受けているそうです。1回の訪問で診るのはおよそ10名前後。
訪問歯科が定着している同施設では、口腔ケアの知識そのものがスタッフの間に浸透しています。歯科医師や歯科衛生士による研修も行われ、日々の申し送りを通じて、個別のケアのコツが職員に共有される仕組みができあがっています。

「歯科衛生士さんが入った後に、先生から『この人は磨き残しが多いよ』『この人はこの辺に食物残渣が溜まりやすいよ』という申し送りがあります。それを私の方で各ユニットの職員に伝えて、『この辺をしっかり磨くように』と指示を出しています。」

全身疾患への影響やオーラルフレイルという考え方も、こうした情報共有を通じて職員間に浸透しているといいます。口の中の衛生状態が炎症や菌の侵入、ひいては敗血症につながるケースもあることを、根本さんは現場での実感として語ってくれました。


「よく噛めるようになった」――入居者に起きた変化

訪問歯科による治療の効果は、入居者の食事の様子に如実に表れているそうです。ぐらついていた自歯を抜き、義歯を追加した入居者が、以前よりもしっかり噛めるようになった例を根本さんは紹介してくれました。

「本当によく噛めるようになったと、ご本人がとても喜ばれ、先生にお会いするといつも『ご飯食べられるようになったよ』と報告しているんです。歯石がびっちりついていたのを取ってもらってきれいになって、真っ赤だった歯茎がきれいなピンク色になり、出血も止まった方もいます。」

食事の形態そのものが変わることも、大きな喜びにつながっています。刻み食だった方が、義歯の調整によって少し形のあるものを食べられるようになると、本人が実感をもって喜びを表すことも多いそうです。


家族だけでは担いきれなかったケアを、施設と歯科医療がつなぐ

根本裕子さん1

在宅から入居してくる方の中には、口腔内の状態が悪化しているケースが少なくないといいます。その背景には、仕事をしながら介護を担う家族が、口腔ケアにまで手が回らない現実があると根本さんは指摘します。
この点について根本さんは、ご自身の体験も交えて語ってくれました。長く独居生活を送っていたお父様は、脳の病気で身体が不自由になり、歯科への通院が難しい状態が35年近く続いていたそうです。仕事をしながらでは訪問の付き添いもできず、訪問歯科を利用することもできないまま、歯石が積み重なっていったといいます。施設への入居をきっかけに、ようやく歯科往診につながりました。

「先生も『わーっ』となるくらい、歯の後ろに硬いものがべったりついていました。頑固なところもある父でしたが、先生や歯科衛生士さんが優しく声をかけてくれるうちに、だんだん心を開いて。毎週ケアを続けてもらう中で、磨くたびに出血していた歯茎が、だんだんきれいなピンク色になっていきました。本当にありがたかったです。」

「家では拒否が強かった入居者でも、先生や歯科衛生士さんが声をかけると、なぜかすんなり任せてくれるんです」と根本さん。専門職ならではの信頼関係の築き方に、日々助けられているといいます。


お口の診察がきっかけで見つかった病気

訪問歯科による診察は、口腔ケアにとどまらない役割も果たしています。根本さんは、口の中の異変から病気の早期発見につながった事例も紹介してくれました。

「口の中のできものを見て、先生がすぐに市内の口腔外科へ紹介状を書いてくれたことがありました。そこで口腔癌が見つかり、がんセンターまで話がつながりました。職員では気づかないような変化に先生が気づいてくださるので、本当にありがたいです。」

口腔ケアの現場に日常的に歯科医師が関わることで、全身の状態の変化にいち早く気づき、次の医療につなげられる。訪問歯科ならではの価値がここにも表れています。


これから訪問歯科の導入を考える施設へ

根本裕子さん2

最後に、これから訪問歯科の導入を検討している施設や、口腔ケアに悩む職員へのメッセージを伺いました。

「口腔の状態は全身に影響してくると思うんです。ご飯が食べられなかったり、痛みがあったり。だから歯科往診でのケアや治療はとても大切です。職員も指導やアドバイスを受けられるので、スキルアップにもつながります。ぜひ訪問歯科を入れていった方がいいと思いますね。」

根本さんの言葉には、日々入居者と向き合う現場ならではの実感がこもっていました。訪問歯科は、入居者の「食べる」「話す」「笑う」を支えるだけでなく、家族が担いきれなかったケアを引き継ぎ、時に病気の早期発見にもつながる存在です。次回は、庄和和合を長年支えてきた春日部デンタルクリニックの石井大貴先生(現・所沢デンタルクリニック院長)に、歯科医師の立場からお話を伺います。


▼取材協力

特別養護老人ホーム庄和和合外観

特別養護老人ホーム庄和和合
住所:〒344-0117 埼玉県春日部市金崎527-1
電話番号:048-745-4501
医院HP:https://shouwa-wagou.or.jp/


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