紀元前から存在した!?インプラントにまつわる意外な歴史
インプラントが紀元前に行われていた!?
高度な技術を持ってして行われる現在のインプラントは、歯科領域における高難度の手術と言ってよいでしょう。ところが、実はすでに紀元前にインプラントによる手術が行われていたという発見がされているのです。
ヨーロッパで発見された紀元前3世紀ころと思われる人骨には、鉄製の素材がインプラントのごとく埋め込まれているのが見つかっています。さらに南米では紀元前7世紀ごろと思われる人骨に貝でできたインプラントらしきものが、埋め込まれているのが発見されています。
この時代には、インプラント手術を行う治療設備など到底存在しない時代なので、施術法については推測の域となります。考えられるのは、歯が抜けて空いてしまった穴に直接押し込むなど、原始的な手法により行われていた可能性が高いでしょう。現在のインプラント術のルーツを紀元前までさかのぼってみることができたるのは驚きの一言です。
鉄や貝の他には何が使われた?
私たちが安心して受けられる現在のインプラント術が完成するはるか昔に、脆弱な技術や不安定な素材を用いたインプラント術のような取り組みにチャレンジしていたことがわかりました。鉄や貝などの次には金やサファイヤ、エメラルドなどの貴金属、あるいは象牙などが素材に用いられていたようです。
実際、インカ帝国の遺跡やエジプト文明に関係する遺跡からは、これらの素材を用いたインプラント術をほどこしたと思われる人骨が見つかっているのです。また、古代のギリシャでは奴隷の歯を抜いて支配者層の者の歯ぐきに埋め込んだという記録までもあるようです。
20世紀以降の素材は?
近代ではセラミックやチタン、コバルトクロムなどの素材が使われましたが、耐久性、安定性、安全性などの面で完全な成功例と言える事例は多くなかったようです。ところがこれら素材のうち、チタンという物質が人間の骨と高い親和性があることが発見されました。1952年、スウェーデンのペル・イングヴァール・ブローネマルク教授が、実験の際にウサギの骨にチタン製の器具を取りつけていました。
ところが、これを取り外そうとしたところ、骨とがっちり結合してしまい、外すことができなくなってしまったのです。骨がチタンを異物ではなく同じ材質だと思い込み、一体化しようとした結果ではないかと推測されました。異なる物質がこのように一体化しようとしたり、異物として排除しようとしたりしないことを「親和性がある」と表現しますが、骨とチタンは非常に親和性が高いということがわかったのです。
ブローネマルク教授はこれをOsseointegration(オッセオインテグレーション)と名付けました。オッセオは「骨」、インテグレーションは「結合」という意味です。この発見が現在のインプラント術の安全性、安定性を飛躍的に高めることに貢献しました。その後も技術開発は行われ、用いる素材の面から、また術式の開発など技術面からの研究が進み、骨との結合力をさらに高めるハイドロキシアパタイトを素材に用いるなど、さまざまな工夫も行われるようになりました。
そして、今日もまたより良いインプラント術を目指して各方面での研究が続いているのです。