ライオンデンタルフェスティバル2017 ~「予防歯科でつなげる歯科と生活者の未来」レポート~

2017.12.08 medicalHa・no・ne編集部

講演内容

2017年11月19日(日) TOC五反田メッセ
第1回 ライオンデンタルフェスティバル~予防歯科でつなげる歯科と生活者の未来~

・アンチエイジングから見た予防歯科~歯から全身へ、全身から歯へ~
同志社大学生命医科学部 アンチエイジングリサーチセンター教授 米井嘉一先生

・「健康寿命」を支える歯周病予防
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 和泉雄一先生

・ライフステージに応じたフッ化物応用の科学的な考え方~歯磨剤、洗口剤は何歳からいつまで使うの?~
東京歯科大学 衛生学講座 教授
(公財)ライオン歯科衛生研究所 東京デンタルクリニック院長 眞木吉信先生

・超高齢社会、健康寿命、予防歯科、そして歯科医療の未来
東京歯科大学 水道橋病院病院長
東京歯科大学 口腔インプラント学講座 教授 矢島安朝先生

・患者の行動変容を伴った意識改革の実践~歯科衛生士として治療から予防をサポートする~
株式会社プラスアルファ 代表取締役 黒川綾先生

・コンポジットレジン修復とセルフケアとの接点を考える
日本大学歯学部保存学教室 修復学講座 教授 宮崎真至先生

・未来へ繋げる予防歯科
株式会社TOMORROW Link 代表取締役 濱田智恵子先生

・長期予後を目指した重度歯周炎の治療とその再発予防について
船越歯周病学研究所所長 船越栄次先生

アンチエイジングは“病的な老化を防ぐ予防医学”

米井嘉一先生

最初の登壇者は、日本の抗加齢医学(アンチエイジング)における第一人者である米井嘉一先生。近年、美容業界を中心にアンチエイジングという言葉が流行していますが、必ずしも言葉の使い方が正しいものではないようです。多くのメディアが謳う老化に抗うことを考えた「抗老化」とは少し考え方が異なり、本来は“病的な老化を防ぐための予防医学”が根底にあることを力説してくれました。

人間は100歳以上の長寿を実現できるポテンシャルを誰もが持っているにもかかわらず、病的な老化によってその年齢に達する前に大半の方が亡くなってしまいます。米井先生によれば、老化の仕方や促進させる危険因子も人それぞれであり、兆候を早期に発見して正しい医療を行うことが真のアンチエイジングなのだそうです。

口腔領域の老化も当然ながら人それぞれであり、歯の本数が減る人、歯周病になる人、唾液が減る人、咬合力が低下する人、嚥下障害をきたす人などさまざま。そのため、それぞれが自身の老化の危険因子きちんと見極め、正す必要があるそうです。また、口腔機能の老化は全身の老化と深く関わっており、「歯(口腔)から全身を、全身から歯(口腔)を考えること」が大切だと教えていただきました。お口の健康を守ることで、QOLを高められれば、おのずと健康寿命を延ばすことにつながりそうですね。

健康寿命の延伸に欠かせない歯周病予防

和泉雄一先生

続いて登壇したのは、日本歯科医師会主催の「歯の健康シンポジウム」でもお話を伺った、日本の歯周病学・歯周治療学の第一人者である和泉雄一先生でした。内容は心臓・循環器疾患、糖尿病、呼吸器疾患、アルツハイマー病などの生活習慣病の大きなリスクファクターになることが明らかにされている歯周病についてです。

歯周病は生活習慣病悪化のリスクが高まるだけでなく、妊婦さんにおいては早産・低体重児氏出産にも大きく関わることが研究結果からわかっています。そのため、歯周病を予防することは、すなわち寿命を延ばすことと同義と言っても過言ではないそうです。虫歯と比べて軽視されがちな歯周病ですが、予防の心がけが長生きをするうえでのキーになることを学びました。

超高齢化社会に突入し、世界でも有数の長寿国となった日本においては単に長生きするだけではなく、「健康寿命」を延伸させることが重要になります。そういう意味でも、歯周病を予防してお口の健康を常に意識することは、必然的に全身の健康の向上にもつながり、健康に長生きできる可能性を高めてくれるでしょう。

各分野の権威による予防歯科の講演は続く

ダイジェスト版

その後も続々と各分野の著名な先生方の耳寄りな話を聞くことができました。しかし、情報量が多く、かつ専門的な話題にも触れていたため、ここからはダイジェスト版で紹介します。

眞木吉信先生(前列中央)

フッ化物配合歯磨き粉などの製品がドラッグストアの店頭に並ぶなど、フッ素が歯の再石灰化を促すことは多くの方がご存知かと思います。そして、2017年3月に厚生労働省が歯みがき剤のフッ化物濃度の上限を1,500ppmまで引き上げることを承認したことにより、ライオンさんをはじめとする各メーカーから高濃度フッ化物配合の歯磨き粉が発売されました。ただ、歯の健康にいいとされるフッ素ですが、単に多く摂取すればいいものではなく、ライフステージに合った用量・用法を守った使い方が重要とのことでした。

矢島安朝先生(後列左から2番目)

日本は世界でも類をみないスピードで超高齢化が進んでおり、2015年には高齢者人口は3,384万人、高齢化率は26.7%に到達しています。こうしたデータに悲観的な見方がありますが、考え方を変えれば歯科医療の超高齢社会対応における世界のモデルになれることを意味します。日本の高齢者が口腔内環境を健康な状態に保てることを世界に向けてアピールするためには、歯科業界と歯科関連企業のさらなる連携強化や1人ひとりの方の予防の意識を高めることが重要なことを強調していました。

黒川綾先生(前列右)

2016年の歯科疾患実態調査において、1日に複数回歯磨きをする人の割合が約77%に達しました。これは欧米諸国とも大差がなく、1969年調査で歯磨きは1日1回が約62%だったことを考えるとホームケアにおける行動変容を伴った意識改革が起きたと考えられます。しかし、歯科医院での定期検診を受けている割合は歯科先進国・スウェーデンが約80%に対して日本はわずか10%ほど。それが80歳時の平均残存歯の数の違いの要因であり、プロケアにおいても行動変容を伴った意識改革が必要とのことでした。

宮崎真至先生(上記写真には写っていません)

近年では、樹脂製の歯の修復用素材であるコンポジットレジンを用いることで、MI(ミニマルインターベンション/Minimal Intervention)という考えに基づいた最小限の侵襲に抑えた虫歯治療が主流になりつつあります。治療により歯が受けるダメージを最小限に抑えつつ、機能性と審美性を両立することが求められています。しかし、どんなに完璧な修復処置を行っても、再発を予防するためには口腔内の清掃が基本です。そのため、コンポジットレジン修復とその後のセルフケアはセットで考える必要があるとのことでした。

濱田智恵子先生(前列左)

「予防」「予防歯科」「メインテナンス」など多くの言葉が乱立している現在では、歯科衛生士も「歯のクリーニングをする人」から「患者さんの未来を考えられる人」になる必要があることを説明してくれました。仕組みやシステムだけでは患者さんを救うことはできないので、歯科衛生士としてプラークコントロールや生活環境改善などの提案スキルを身につけることが重要。そして、それはマニュアルではなく1人ひとりの患者さん個人に合わせた予防の提案であることが大切だと説明していただきました。

歯周病の再発予防につながるメインテナンス・SPT

船越栄次先生

計7時間にもわたる“予防の祭典”の最後の登壇者は、本イベントの大会長を務める船越栄次先生です。船越先生は1980年に船越歯周病研究所をオープンして以来、37年間にわたり開業医として包括的な治療に取り組んできました。健康で快適にかつ機能する口腔内環境と歯列の確立を治療のゴールとし、患者のQOLの向上と長期予後を目指した治療を信条としています。

講演では歯周病の状態悪化が進んだ重度歯周炎についての治療と再発予防ついて熱弁していただきました。重度歯周炎治療においては初期のプラークコントロールが重要であり、治療終了後のメインテナンスやSPT(Supportive Periodontal Therapy/歯周病安定期治療)における再発や根面カリエスを予防することが不可欠だということでした。

特に歯周病治療のカギだと言われているのがSPTであり、健康管理を主とするメインテナンスとは一線を画します。現役の歯科衛生士の方でもきちんと説明できないケースも多々あるそうなので、その点を理解して治療を行うのか否かでは長期予後に少なくない影響を及ぼします。そのため、患者さんの歯周組織の状態に応じて、歯科医師による咬合調整や歯科衛生士によるポケット内洗浄・スケーリング・ルートプレーニングを徹底することが大切なことを強調していました。

確実に浸透している予防歯科重視の意識

8名の講師による豪華な講演が終わりましたが、すべての方が予防に非常に力を入れており、その熱量を感じることができました。Ha・no・neでももちろん予防の重要性について伝えていますが、こうした一線級で活躍する著名な方々の話を聞くと、その方向性が間違っていないことを実感できますね。

「予防歯科でつなげる歯科と生活者の未来」というサブタイトルにあるように、予防歯科は未来を見据えた取り組みです。そのため、この世に生きるすべての人にとって関連する話だと言えます。ただ、まだ歯科検診に通う人の割合がアメリカやスウェーデンなどの歯科先進国に比べて少ないなど、日本における予防歯科の意識はまだまだなのも現状です。だからこそ、1人ひとりが自分事と捉えて、お口の予防意識が高い社会にしていくことが求められています。

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