専門家が見据える“歯科の新時代”~第7回DNA講演会「噛む、も味わう、も歯科」レポート~

2017.09.20 medicalHa・no・ne編集部

《講演内容》

第7回DNA講演会

2017年8月6日(日) パシフィコ横浜 会議センター1階メインホール
第7回DNA講演会「噛む、も味わう、も歯科」

・世界が注目するUmamiを活用した味覚障害・ドライマウス治療~歯科医療のブレークスルー~
東北大学大学院歯学研究科教授 笹野高嗣先生

・人生100年時代における健康づくり~うま味という観点から~
予防医学研究者/医学博士 石川善樹先生

・歯科的視点(歯点)こそが糖尿病栄養指導を変える~栄養素指導を捕食・咀嚼指導へ~
医学博士/にしだわたる糖尿病内科 院長 西田亙先生

・開業歯科医師からみた 噛めて美味しく食べることができる歯科医療の重要性
日本歯周病学会専門医・評議員 長谷川 嘉昭先生

・ポジティブになれる匂いと味わいの心理学
メンタリスト DaiGoさん

最先端の味覚障害治療には「だし」が使われている?

笹野高嗣先生

最初の登壇者は東北大学の教授でありながら、日本口腔診断学会理事長も務める笹野高嗣先生。
味覚障害やドライマウスの治療についてのお話でした。味覚障害の患者数は1990年代から増加傾向にあり、その原因の1つには唾液分泌量の低下(ドライマウス)が挙げられています。笹野先生は「うま味」を用いたドライマウス治療を臨床に応用した第一人者であり、そのユニークな治療法はBBCニュースやNature誌でも報じられるなど世界中から注目を集めています。

笹野先生が応用したのは脳が味覚を感じると唾液が分泌させる仕組みです。唾液は苦味や塩味、酸味よりも「うま味」を感じた時に多く分泌さることがわかっています。うま味の正体はグルタミン酸(昆布)やイノシン酸(鰹)、グアニル酸(シイタケ)などの物質。笹野先生はなんと味覚障害の患者に昆布だしでうがいをさせました。最初は味を感じ取ることができなかった患者も、うがいを約2週間続けたころから口の中の潤いや味覚の感覚が戻りはじめ、その後3~6ヶ月続けることでうま味がわかるようになり、食欲が出たそうです。

味覚障害を発症すると食欲が落ちるため、痩せて栄養不足になるなど全身にも影響を及ぼします。笹野先生は全身の健康のためには正常な味覚を維持することが大切であると力説。食べ物の味は舌の味雷(みらい)で受容され延髄(えんずい)を経由して脳に伝わりますが、脳には口腔内の感覚も伝わるため、虫歯や口内炎があると味覚が変わってしまうそうです。食べ物本来の味を楽しむためには、まずは虫歯やドライマウスの治療が重要になります。

平均109歳の平成生まれが心得るべき“健康寿命”の概念

石川善樹先生

2人目の登壇者で予防医学研究者の石川善樹先生は、人や組織と良好な関係を保つことで元気に生きられる期間(健康寿命)を延ばすことが大切であることを話していました。定年退職から寿命を迎えるまでの期間が延びている現代の日本においては、目からウロコな情報ですね。

中でも興味深かったのは、老後に残る歯の本数は所属する組織の数によって決まるというもの。実際に4つの組織に属している人は、何の組織にも属していない人と比べて1.5倍も歯が多く残っているという調査もあるようです。石川先生は老後20本以上の歯が残るかどうかの31.6%は社会的要因で決まるとしており、社会とつながりを持つことがいかに重要かを熱弁されていました。

元気に長生きをするためには食事や運動、飲酒や喫煙の量などに気をつけるだけでなく、社会とつながりを持つことが大切なんですね。平成生まれの人が定年を迎えるころには平均寿命が109歳に達するという予測もあるので、趣味のサークルや地域活動には積極的に参加することで“健康寿命”も延ばしていきたいところですね。

今までの治療は“ハラスメント”?糖尿病と歯周病の意外な関係

西田亙先生

次に登壇した糖尿病専門医の西田亙先生は、糖尿病治療のためには医科と歯科の連携が重要であると説いておられます。なんでも、糖尿病外来で行われている栄養指導は偏食を来している人にバランスのよい食事をすすめることに終始しており、偏食の原因である味覚障害の改善にまでリーチできていないのだとか。

味覚障害を改善するためにはドライマウスや虫歯の治療が必要であることは、前述の笹野先生のターンでご紹介しましたが、歯周病による炎症も味覚に影響しています。また、歯周病によって発生する炎症性サイトカインはインスリン抵抗性を生むため糖尿病患者の治療を阻害する場合もあり、歯周病を治療したことで糖尿病が劇的に改善したケースも実際にあったそうです。

これらのことから、2016年には日本糖尿病学会が患者に歯科への通院をすすめるようになりました。味覚障害のある人にバランスのいい食事を押しつける今までの治療法は患者に対する“ハラスメント”ともいえ、今後は口腔内環境の改善によって正常な味覚を取り戻すことから治療を始めるべきというのが西田先生のお考えです。糖尿病と歯周病はまったく関係のない疾患のように思えますが、こんなに密接な関係があったことには正直驚きでした。

QOL維持のために必要なのは「戦略的歯周病治療」

長谷川嘉昭先生

歯周病専門医でインプラント治療にもくわしい長谷川嘉昭先生のパートでは、国民の80%が歯周病予備軍であることが紹介され、歯科での継続的なメンテナンスが重要な意味を持つとご説明されていました。長谷川先生は歯科医師や歯科衛生士は患者の残っている歯の本数だけでなく、それらの歯がきちんと機能しているのかまで総合的に管理することが大切であると力説されていらっしゃいました。

歯周病の治療は対症療法としてだけでなく、予防も含めた治療の計画性など戦略面も重要なことを学びました。QOL(quality of life/生活の質)を維持し、キラリと光るきれいな歯が歯周病によって抜け落ちるのを防ぐためにも、そうした緻密な管理が必要なんですね。

口の健康を保つためにも歯科医院の定期診断へ

メンタリストDaiGo

ここまで4人の先生の話を聞いて私が感じたのは、歯や口腔内環境を正常に保つことは、老後の人生の質を高めるために非常に重要であるということです。寿命が延びても食べ物をしっかり噛むことができなければストレスになりますし、それが味覚障害や糖尿病を誘発するようでは健康に過ごすことはできません。ものを噛む、ものを味わうことを人生の最後まで楽しむことができるよう、定期的に歯科医院に通って口腔内環境のメンテナンスを行いたいと思いました。

講演会終盤はコーヒーブレイクを挟み、最後にはメンタリストのDaiGoさんが匂いと味わいの関係についてお話して下さいました。味覚は期待と予測(周辺の環境)によって左右されており、パッケージを変えるだけでチョコの味は苦くも甘くもなるそうです。また、ペパーミントやシナモンの香りを嗅ぐと仕事が捗るという話も伺ったので、集中力が切れた時に試してみたいと思います。

以上、株式会社ヨシダ 第7回DNA講演会「噛む、も味わう、も歯科」レポートでした!

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