(株)オーラルケア ・歯科衛生士が語る強い信念 「情報を届けて歯科の予防 を文化に」

2018.01.23 interviewHa・no・ne編集部

Ha・no・ne編集部:森下(以下森下)
御社はこれまでたくさんのセミナーを開催され、予防歯科に関する啓蒙活動を行っているとのことですが、その理由やセミナー開催への想いを教えてください。

株式会社オーラルケア:鈴木さん(以下鈴木) 
私は入社して15年経ちますが、これまで多くの歯科医師や歯科衛生士に向けてセミナーを開催してきました。そこには、生活者の皆さんが“歯科予防に関する情報”を「歯科衛生士の言葉を介して正しく受け取ってもらいたい」という想いがあります。誰もがSNSを活用する時代になり、さまざまな情報を簡単に得ることができますが、それが「正確な情報」とは限らないのです。だからこそ、予防のプロである歯科衛生士から直接情報を受け取ることが重要だと考えています。ただ、私たちが考えていたほど 拡散にスピード感はなく、なかなか 一般に情報が届いていないと痛感しています。

森下 
歯科医療の話は一般の人にまでとなると、なかなか難しいのですね。

鈴木 
実際に 歯科の世界から一歩外に 出るとびっくりします。歯科医院に通ったことはあるというのに「みんなこんなに無知だったのか」と。歯科医療従事者の私たちが伝えている「つもり」になっているだけで、生活者にはほとんど届いていないという現実を受け止める必要があると感じています。私たちは歯科予防 を日本の文化にするために直接情報を送り、それがスピーディーに拡散するよう活動しています。

森下 
文化として歯科予防 が当たり前の国になれば、本当に素晴らしいですね!そんな時代になってほしいな……。入社されて15年とのことですが、この15年で日本の歯科予防の意識は変わったと思いますか?

鈴木 
うーん……歯科の機材はとても進歩していますよね。歯のケア製品についても電動歯ブラシや高額な歯磨き剤も増えています。それらのニーズも高まっているので、10数年前に比べると予防の意識自体は高まっているように感じます。しかし、問題は「正しい知識と理解の不足 」です。

特に歯ブラシを 使って「何を」除去しているのかがわかっていらっしゃらないように感じます。そして「どこを」 集中してケアするべきか知らない人がほとんどなので、きちんと歯磨きをしているつもりでも「結果」が出ないのです。

森下 
たしかに、考えてみると歯科グッズをどう使うかなんて、教えてもらう機会ないですもんね。

鈴木 
テクノロジーは進歩してきているのに、虫歯や歯周病の本質的原因「病因論(※)」 をわかりやすく的確に伝えている歯科医院は少ないのかもしれませんね。

森下 
そうなんですね。予防歯科に関しては、やはりアメリカやスウェーデンなどの先進国に比べまだまだでしょうか?

鈴木 
まだまだですね。日本人も美や健康のために投資する人が増えているのに、残念ながら歯もその対象の1つという認識までは至っていません。しかし、それは健康的な歯が自身の生活をどれだけ豊かにできるのかを正確に知らないだけなのです。情報を正しく受け取ってくれた人の多くは、確実に歯のリテラシーが向上します。

森下 
どちらかというと今の日本人の認識は健康な歯というより、美しい歯に憧れるというイメージが強いかもしれませんね。女性の方は特に。

鈴木 
そうですね、 美しい歯は実は健康に基づいているのですけれどね。

※むし歯と歯周病の病因論

異色の組み合わせ!「きんゆう女子。」とのコラボが実現した理由とは?

森下 
少し前に金融に関するコミュニティの「きんゆう女子。」さんとコラボしたセミナーを開催されましたが、歯と金融って珍しいコラボですよね。コラボに至った経緯などを教えていただけますか?

鈴木 
「金融は私たちにとって身近で生活を豊かにするもの。だからこそ“金融がわからない女子”たちに情報を届けていきたい」というきんゆう女子。代表の鈴木万梨子さんの理念と私たちの歯科の活動に共通するものを感じました。

森下 
想いが熱いですね。

鈴木 
「情報を知らないことで人生において損をする人を減らしたい」という共通の想いで意気投合し、「一度一緒にイベントをやってみようか?」という話になりました。実際にイベントを行うと万梨子さんからも「この情報はもっと多くの人に知ってもらった方がいい!」と言っていただけて。その後、特別イベントも企画し実施させていただきました。

森下 
それで2回開催されたんですね……なるほどなるほど。1回目に参加して、2回目もって方がすごく多かったみたいですね。

鈴木
1回目は「夢の実現」をテーマにしました。イベントに参加していただいた皆さんは、普段から金融を勉強していて明確な夢や目標を持っています。将来のための「投資」という概念の重要性もご存知です。そこで、夢の実現にはお金ともう1つ、「健康への投資」も不可欠であることに気づいてもらえるようにセミナーを構成しました。

森下 
反響はどうでしたか?

鈴木 
想像以上に多くの方からの反応があって驚きました。ただ、皆さん意識は高いのにケアの方法については知らないことが多すぎる(笑)。一般のセミナーでは珍しいくらいにたくさんの質問もいただきましたが、正直基本的な内容ばかりでした。「なぜ歯医者さんで聞かないのか?」と尋ねると「聞きにくいので……」という返答をいただきました。

今回のセミナーをきっかけに、参加者の1/4ぐらいの方が自 分に合ったケアの方法を身につけたいという想いから歯科クリニックを受診されたそうです。歯を確実に守るために歯科医院ではどんな質問をすべきかまでもセミナーでお伝えできたので、今後は遠慮することなく歯科衛生士にどんどん質問をして知識を増やしてもらいたいと願っています。

森下 
すごいですね。たしかに、私もセミナーに参加させていただきましたが、隣に座っていた方が予防のために 歯科医院に行ったと話してくれました。他にも「矯正治療を始めようと思います」とか「歯への意識が変わりました」と話す方がいらっしゃいましたよ。それから、みんなが口をそろえて言っていたのが「小さい時からずっと教わってこなかった」ということ。実際、小学校でも歯についてはちょっと検査をする以上のことはないですもんね。

鈴木 
学校教育で行う磨き方の指導って「何年前の情報ですか?」というものが多いんですよ。「磨け磨け!とにかく歯ブラシで磨け」という方法では、虫歯も歯周病も予防できないので……。教え方が間違っているということは大きな問題ですよね。

歯のケアにおいて非常に重要なのは「フロス」

森下 
磨き方の話題が出たので、ここで鈴木さんが常々おっしゃっているフロスの重要性を教えてください。

鈴木 
そうですね、日本だと「歯を磨く=歯ブラシ」というのが常識かと思います。

森下 
歯ブラシ以外の発想がある人ってあまりいませんよね。私も正直、今までフロスの使い方って知りませんでした。

鈴木
だからみなさん歯を失ってしまうんです。歯のケアでどこが1番必要かといえば、細菌が棲んでいる場所。特に歯周病菌は空気が苦手なので歯と歯のあいだや歯肉溝に住んでいるんですね。その歯周病の好発部位を適切にケアできるのは唯一デンタルフロスだけです。病因論という本質を理解していれば、デンタルフロスが最優先のアイテムだということがすぐに納得できるでしょう。

森下 
なるほど……私も、今後はデンタルフロスを使うようにします。

少しでも歯の評価基準を欧米に近づけるために……

株式会社オーラルケア

鈴木 
ちなみに森下さん、スウェーデンでは歯を数本でも失ってしまうと、もう結婚相手として選んでもらえないそうなんですよ。

森下 
えぇ……。

鈴木 
アメリカでは歯が汚いと結婚相手としてNG。私の知人のイタリア人男性は女性の口元に銀歯が見えるとガッカリするって言っていました。それだけ歯のケアを怠る人は生活がだらしがないイメージがあるということなのです。

森下 
海外は厳しいですね……。

鈴木 
そうですね。でも、きんゆう女子。の万梨子さんから伺った話だと、日本でも銀行から融資を受けようとするときに歯が汚いと、 経営者でも個人でも貸すに値しないって評価されるらしいですよ。

森下 
ええっ!?

鈴木 
自分のこともちゃんとできていないのに、お金をちゃんと返せるのかって判断されるみたいで。企業面接時も口元を見られているという情報もありますし、日本でも歯がその人自身を評価する基準にもなってきているのです。

森下 
その評価基準や文化に、近づいていきたいと。

鈴木 
はい。間違いなく近づいていますし、2020年にはたくさんの外国人が日本を訪れますので外国の方をおもてなしするのにふさわしい「息」でいなけれればなりませんね(笑)。そのためにもやはり多くの人がまずは「病因論」を認識する必要があると考えています。(株)オーラルケアでは中学生のお子さんにも理解できる表現で虫歯と歯周病がなぜ起こるのかをまとめています。その事実を多くの方に届け、その情報を活用していただき、 知らずに後悔する人を1人でも減らす活動を続けていきたいと考えています。

予防歯科普及のために歯科界が担うべき役割

歯科医

森下
最後に予防歯科の重要性について歯科衛生士である鈴木さんの立場からご意見をいただけないでしょうか。

鈴木 
100歳まで生きる長寿の時代において「健康寿命」について国民1人ひとりが深く考えていく必要を感じています。

森下
とても大切なことだと思います。ただ、いつまでも気づけない人もいそうですが。

鈴木 
はい。20~30代の私たちにとっては遠い未来なので実感が沸きにくいのですが、親世代を見るとよくわかります。自分らしく生きるには何よりも健康な体が資本になります。さらには健康寿命を延ばすことは自分自身のことだけでなく愛する家族の生活にも大きく影響するのです。人生を木(自分 や今)だけではなく森(家族 や将来)で捉えていくことが重要で、このことをできるだけ早いうちに気づいてもらえるよう呼びかけたいと思っています。お口の健康が全身の健康につながって、それが豊かな人生につながるんだって知っている人が本当に少ない。だからこそ、私たちはそれを伝えていきたいと考えています。

森下 
本当に大事な役割ですね……。

鈴木 
ただ、虫歯や歯周病の予防のために歯を磨きましょうといっても、誰も動いてくれません。どうしても歯科医療従事者は「歯」ばかりに注目しがちですが、本来は「人」そのものの生活や想いに寄り添うことが重要です。情報を伝えていくときにもそこをぶらすことなく伝えればもっと多くの心に届くと考えています。

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