“AIで歯をつくる”時代到来!? 特許取得済みの歯科技工のテクノロジー

2018.07.02 interviewHa・no・ne編集部

本題の前に歯科技工の現状についておさらい

本題に触れる前にまず、歯科技工の現状について簡単に説明します。みなさんはむし歯になった際に、歯を削った箇所に詰め物(インレー等)をしたり、被せ物(クラウン)をしたりして治療を行いますよね。そうした歯の機能を補うための詰め物や被せ物、差し歯、入れ歯などのことを歯科技工物と呼びます。そして、歯科技工物は以前まではすべてが歯科技工士の手作業によって加工され、製作されていました。しかし、現在ではCAD/CAMというシステムが活用されるケースが増えてきています。

CAD/CAMとは「Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing」の略です。つまり、コンピュータを用いてデザインし、そしてコンピュータで製作することを意味します。CAD/CAMで製作された歯科技工物の一部は、数年前から保険が適用されているものもあり、今後はより身近なものになっていくことが予想されます。

そして、さらに今回の取材ではコンピュータを用いて歯科技工士がデザインしていた歯科技工物を、さらに“AIを用いたプログラムによって行う”という驚くべきテクノロジーが題材になります。歯科におけるAIの導入には、どんな可能性を秘めているのでしょうか。

AIを用いたプログラムで歯科技工物をデザインする

AIと歯科技工

町田さんによれば、現在ではCAD/CAMの普及は進んでおり、すでに多くの歯科技工所や歯科医院に導入されているとのことでした。人の手以外では、精巧な歯科技工物の製作は難しいとされていましたが、技術革新によって現在では世界的にも機械化が浸透してきているそうです。

そして、日本における特許を取得した話題のAI技術は、CAD/CAMの「CAD(デザイン)」の部分を担っています。つまり、コンピュータによって歯科技工士がデザインしていた歯科技工物を、歯科技工士の手を煩わせることなく、AIを用いたプログラムがデザインしてくれるというわけです。このAIはこれまでDSデンタルスタジオが培った1万パターン以上の歯科技工物のデザインデータを活用しており、一人ひとりのお口の状況に合わせて歯科技工物をデザイン。クラウド上のAIに歯型のデータを送信するだけで歯科技工物のデザインができるそうです。

これは時短での製作を可能にしており、たとえばこれまでCADで歯科技工物をデザインするのに15分ほどかかっていた作業が、AIを活用するとなんと20秒。今後はさらに大幅な時間短縮が見込めます。

歯科技工物
被せ物の模型

上記が実際にAI搭載のCADでデザインした被せ物の模型です。どんどんと精度が上がっていく開発の工程が見て取れます。歯科技工士による従来の製作方法、あるいはCADでデザインした歯科技工物に比べて、「AIでデザインすることでクオリティが落ちる懸念はないのか?」という疑念もありましたが、精密につくられていることがわかりました。改めてその性能の高さが見て取れます。

歯科技工士の人手不足をAIによる機械化で解消したい

人手不足解消について

AI搭載のCADのすごさがわかったところで、「そもそもなぜAIの技術を使って歯をつくることを目指したのか?」という素朴な疑問を稲沢さんにぶつけてみました。

すると、「歯科技工は患者さん一人ひとりの口腔状況に合わせ、歯科技工物を一つひとつ手作業でつくるという手工業としてのイメージが強いと思いますが、歯科技工を産業として確立することができれば企業価値が高まると考えています。20年前と比べると歯科技工士を目指す方が3分の1ほどに減少しているので、将来的に歯科診療が成り立たなくなることを危惧しています。歯科技工士は社会的に絶対必要な職業なので、歯科技工界が抱える課題を機械化することで解消したいと思ったことが開発のきっかけのひとつです。」という答えが返ってきました。

以前は、歯科技工士が一人前になるまでには10年かかるといわれていました。しかし、機械化は新たなアプローチになると考えているようでした。そうすれば、歯科技工士がより目指しやすい身近な職業になるかもしれません。稲沢さんに説明していただいたように、歯科技工界の課題を機械化によって解消できるのであれば、歯科技工士にとっても患者さんにとっても大きなメリットとなるといえるでしょう。

AIの活用で今よりもずっと過ごしやすい社会を目指して

取材

AI技術の歯科業界導入のきっかけや実際に得られるメリットなど、技術革新の先端をひた走る2人に熱を込めてお話していただきました。そして、ここでさらに「将来の展望をお聞きさせてください」と質問すると、すると、ズバリ!「医療の産業化とグローバル展開」という回答をいただきました。「歯科技工のグローバル市場に乗り遅れないことはもちろん、先手を打つことが大切です。これからはデジタルデータでのやり取りが主流となっていくでしょう。日本の歯科技工士の優れた技術とテクノロジーを融合させることが未来への鍵となると思っています。」とのこと。AIの技術をどんどん活用することで、業界により大きなイノベーションを生み出すことができるかもしれませんね。

AIにはデータが蓄積されていくので、どんどん学習し精度が上がっていきます。そのため、今後さらなる時間短縮や活用の広がりが期待できるかもしれません。それは歯科技工士さんにとっても、患者さんにとってもうれしいことです。

また、海外のクリニックとオンラインでつながり、データを送信してもらう歯科技工物の製作体制が日常になるでしょう。AIの技術をうまく活用することで、「世界の人々の歯を守る」という大役を担えるかもしれませんね。今後のさらなる歯科業界におけるAI技術の発展に期待しましょう。

▼取材協力▼
DSデンタルスタジオ株式
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