抜歯後に歯科医院で提示される3つの選択肢と心の声 ~実録“インプラント女子”第3話~
痛い?痛くない?人生初の抜歯
歯科医院では、抜歯の必要性を判断するためにまず歯のレントゲンを撮ります。しかし、レントゲン写真で判断できるのはあくまでヒビの影。抜歯が必要な深さにまでヒビが達していることは間違いないものの、実際に歯のどこまでヒビが入っているかは、抜いてみないとわからないというのが主治医の見解でした。説明を受けながら、自分の周りでは歯科衛生士さんたちの手によって着実に抜歯の準備が進められていきます。
抜歯の手順はまず麻酔をして、抜歯をして、止血するというシンプルな流れです。私にとってはこれが人生初の抜歯でした。椅子が徐々に倒れていき、口を開くように指示されると、いよいよ麻酔が打たれます。私は「少しチクッとしますよ~」という先生の声を聞きながら、最近親知らずを抜いた友だちの感想を思い出していました。「麻酔がちょっと痛いけど、抜くときは別に痛くなかったよ」という言葉は果たして本当なのでしょうか。
麻酔の針が刺された瞬間は少しだけ痛みを感じましたが、麻酔が効いてくると何をされても痛くありません。主治医は私が痛みを感じていないことを確認し、麻酔から数分後に抜歯の処置を始めました。「ぐっと押しますよ~」という声で、上から歯が強く押された次の瞬間、問題の歯は簡単に抜けたようです。あまりに一瞬の出来事だったので、自分の歯がいつ抜けたのかわかりませんでした。
抜いて明らかになった歯の惨状(写真あり)
止血のためにガーゼを噛んでいると、主治医が抜いた歯の状態を私に見せてくれました。さっきまで私の口の中にあった歯は、炎症がひどかったためか周りに膿がついており、手袋をはめた主治医の手の中で異臭を放っています。「こんなにクサいものが自分の口の中にあったなんて」とショックを受ける私をよそに、主治医が淡々と歯の周りの膿を取り除くと、あろうことか抜いた永久歯がポロっと2つに割れました。
「膿が歯をつないでいただけで、実際は完全に割れていたようですね」と驚きの事実をサラッと告げる主治医。さすがインプラント界の権威、この状況も想定の範囲内だったようです。「抜歯したところの出血もひどくないので、今日はもう帰って大丈夫です。歯を抜いた部分をどう治療するかは、すぐに決めなくてもいいのでよく考えてきてください」と言い残して主治医は部屋から去っていきました。
これが実際に口の中にあった歯です。主治医の解説によると真ん中に見える赤い芯のような部分は、過去の根管治療で入れた防腐剤であるとのこと。冷静に見てもなかなかショッキングな写真です……。
抜歯した歯を補う治療の選択肢は3つ!
部屋に残された私は、歯科衛生士さんから今後の治療法について説明を受けました。提示されたのはインプラント、ブリッジ、部分入れ歯という3つの治療法。しかし、20代半ばで取り外し式の部分入れ歯を使うことにはどうしても抵抗があるので、インプラントかブリッジかで検討することにしました。
インプラントは健康な歯を削ることなく、天然歯に近い感覚で食べ物を噛めるようになる理想的な治療法です。しかし、最大の懸念事項は保険がきかないため、治療費が高額(30~50万円)になること。また、顎の骨に穴を空ける外科手術を伴うため治療期間が長くなることも、忙しい私にとっては厳しい条件です。
ブリッジなら保険の適用内で治療を受けることができますが、欠損した歯の両隣の歯を支えにして器具を取りつけるため、健康な歯を削らなければならないのが最大のデメリットです。両隣の歯には今まで以上の負担がかかることになるため、将来的には両隣の歯まで抜歯に至る恐れもあります。そうなったら、今度こそ部分入れ歯になることは避けられないでしょう。
私の心には「他の歯の健康のためにもインプラントにしたい!」という気持ちが強く芽生えましたが、治療費を捻出できるだけの経済力がありません。貯蓄もない金欠女子が唯一頼れるのは、両親と祖父母だけです。この窮地に「自分の歯に難があるのは遺伝のせい!」と割り切って親に出資を打診してみることにしました。
麻酔が切れてからの痛みをナメていた!
歯科医院での抜歯が早く終わったので、お昼前にはHa・no・ne編集部に出社できました。歯科医院できれいに包んでもらった問題の歯を周囲の人に見せると、気持ち悪がる人もいれば、好奇心いっぱいに質問してくる人もいて、そのリアクションを楽しんでいる自分がいたのも事実です。昼食にはゼリー飲料を飲んで、処方された痛み止めと抗生剤も忘れずに服用しました。
ところが、午後3時ごろに麻酔が切れ始めると、歯を抜いた箇所の周辺がズキズキと痛み出しました。「薬を飲んでも痛かったら、濡れタオルや冷却シートで冷やしてください」という歯科衛生士さんの助言を思い出し、仕事中いつも頭に冷却シートを貼っているM本先輩に「1枚譲ってくれませんか?」と声をかけてみることに。しかし、返ってきたのは「ちょうど使い切っちゃった」という残念すぎる答えでした。私は仕方なく自販機で冷たいペットボトル飲料を買い、右の頬にあててその日の仕事を乗り切りました。
抜歯のあとは適切な治療を
永久歯を抜いた後は、インプラントやブリッジなどによる欠損治療を行わないと、周囲の歯が空いたスペースを埋めるように動いてしまいます。歯並びが悪くなると噛み合わせが変わり、顎関節症などを引き起こす恐れがあるため、直ちに適切な治療が必要です。欠損治療には、インプラント、ブリッジ、部分入れ歯などの種類がありますが、費用や治療期間、他の歯への影響をよく比較して、自分に合った治療法を選びましょう。
次回のトピックは「抜いた隣の歯が痛む不思議」「歯ぐきの穴に食べ物が入り込む苦悩」「歯がないくせに親のスネはかじる」です。お楽しみに!
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【ライター紹介】 RIKA
Ha·no·ne編集部でもっとも歯に悩みを抱えるライター。小学生時代に上下の顎の噛み合わせが逆である「不正咬合」であることが判明したのを皮切りに、乳歯が生え替わる際に必要な永久歯が生えない「先天性欠損」や慢性的に冷たい物が歯にしみる「知覚過敏」など数々の困難を経験。2017年春には25歳にして永久歯を1本失った。そんな“口運”に見放された悲劇のヒロインとしての物語を「実録!インプラント女子」にてありのままに綴っている。予防歯科や矯正治療の重要性を世の中に発信したいという気持ちは、当然ながら“ノンフィクション”だ。
Twitter:香取さとり【文筆業】
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