ライオンが口臭ケアサポートアプリを開発! “指摘しにくい”相手の口臭への不満をヒントに

2018.12.07 interviewHa・no・ne編集部

「口臭ケアサポートアプリ」を開発するに至った経緯

口臭ケアサポートアプリの開発は、ライオンとインサイトテックが協働することにより、約1年半前に始まったプロジェクトから生まれました。今回は、開発の中心人物であるお三方に話を伺いました。

不満買取センター

写真左から
ライオン株式会社 研究開発本部 イノベーションラボ 所長 宇野 大介さん
株式会社Insight Tech 代表取締役社長 伊藤 友博さん
株式会社Insight Tech 営業部 マネジャー 斎藤 雅史さん

インサイトテックは、自社で運営する「不満買取センター」に届いた生活者の不満を、最新のAIを使って分析し、そのデータを企業や官公庁と共有することで、さまざまな問題解決に貢献している企業です。口臭ケアサポートアプリの開発は、不満買取センターに寄せられた「口臭関連の不満2,000件」を解析することから始まりました。

斎藤
不満買取センターには、生活者の生の声がたくさん集まってきます。今回は「口臭」というキーワード以外にも、口臭にまつわる類義語を検索するAIを使い、精度の高いデータを集めて生活者のニーズをあぶりだしました。

伊藤
口臭に関して「嫌だな、不快だな」と思うことがあっても、だいたい時間が経つと忘れてしまうじゃないですか?企業主体のアンケートで「口臭で困ったことはありますか?」と聞くより、不満買取センターに寄せられた口臭に関する具体的なエピソードを解析したほうが、生活者の本音を吸い上げやすいんです。

ニーズ

安倍
なるほど。そこで「自分の口臭が心配だからチェックしたい」という意見が多く集まったということでしょうか?

宇野
いや、それがそうでもないんです。私も、インサイトテックさんの調査結果を見るまでは、「口臭を相手に気づかれたくない」「口臭をケアしたい」といったニーズが中心になると予想していました。でもフタを開けてみたら「自分の口臭に不満を感じること」 よりも、「対話の相手に、自身の口臭を自覚してほしい」というニーズが多かったんです。

伊藤
具体的には、職場や店舗での買い物や宅配業者との玄関先でのやり取りなど日常のなにげない風景で感じる、相手の口臭についての不満の声です。例えば、「職場で上司の口臭が気になることもあるが、直接言いにくいのでそれを相手に自覚させる方法がなくて困っている……」とか。

安倍
確かに、仕事で毎日顔を合わす人に直接「口が臭いですよ」なんていったら、気まずくなりそうですもんね。

口臭の悩みで気になるのは意外にも「人間関係」

人間関係

新サービスでは「ケア」へのニーズから離れ、「チェック」のフェーズにアプローチすることを考えたという宇野さん。しかし、生活者が自ら口臭チェック用品を購入するのには恥ずかしさがあり、専用デバイスが必要となれば、実際に手に取るハードルも上がるでしょう。そこで、スマートフォンで口臭リスクをチェックできるアプリの開発に着手したそうです。

斎藤
口臭はお悩みのカテゴリーでいうと健康とか薬品に当てはまりそうじゃないですか?でも、実際に寄せられた悩みは「人間関係」のカテゴリーに割り振られるものが多かった。それは新しい発見でしたし、不満買取センターでなければ集められない声だと思いました。

宇野
人間関係の悩みというのは、オーラルケア商品の開発では通常着目しない観点です。インサイトテックさんの解析データが、口臭ケアサポートアプリを開発する決め手になりました。

安倍
スマホで簡単に口臭リスクがチェックできたらすごく便利そうですね!でも、アプリの開発って結構時間がかかるんじゃないですか?

宇野
アプリを作るときに一番手間がかかるのは、今回で言えば「舌がどんな状態だとどのくらいの口臭が発生するか」という正確なデータです。アプリとして実用化するためには、まず正確なデータを得るための調査をしなければなりませんが、ライオンではすでに口臭に関するデータを高い精度で蓄積していたため、スムーズに次の開発工程に進むことができました。

安倍
アプリの開発がスムーズに進んだのは、ライオンさんが長年の研究で蓄積したデータと、インサイトテックさんが新たに分析した生活者のニーズが、うまく噛み合ったからなんですね!

スマホでニオイ判断?「口臭ケアサポートアプリ」の使い方

口臭の主な原因は、舌の表面に付着した舌苔(白いコケのようなよごれ)と考えられています。「口臭ケアサポートアプリ」は、スマホで舌を撮影し、AIが舌の状態から口臭リスクを見える化するというもの。舌の状態からは胃や肺から発生するニオイまでは判定できないので、食後や喫煙後の口臭リスクをチェックするというよりは、日常的な口腔環境での口臭リスクをチェックするのに有効なアプリと言えるでしょう。

アプリ開発

宇野
このアプリは、AIが導き出した口臭リスクのレベルと、おすすめのケア方法を提案できるようになっています。従来の口臭チェッカーは、口臭の程度を測定して終わりでしたが、このアプリならケア方法まで表示されるので、実際の口腔ケアに活かしやすいという点が大きな特徴です。



《アプリの使い方》
撮影に使用するのはスマホのインカメラ。舌を出し、画面に表示される線に舌を合わせて撮影ボタンを押します。画像が読み込まれると、AIが舌の状態から口臭リスクを判定します。

「実演に備えて舌を磨いてきた」という斎藤さんが、使い方をレクチャーしてくれました。

使い方レクチャー
口臭リスクチェック

あらかじめ舌のケアを済ませていた斎藤さんは、口臭リスク低めの判定に。当然と言えば当然の結果ですが、チェックする習慣を身につければ、自然と舌のケアに意識が向くことを裏付ける実演となりました。口臭リスクのレベルが表示された後は、スマホにケア方法が表示されます。

安倍
へえ~、思ったよりコメントが長いですね。このアドバイスはどなたが考えたんですか?

宇野
口臭ケアのアドバイスは、ライオンの研究データや知見をもとにして作成しています。オーラルケアの知識を深められる内容になっているのでボリュームはありますが、最初のほうでアドバイスを要約しているので、忙しい人もケアのきっかけとして利用してもらえれば嬉しいです。

安倍
(メニュー画面を見て)この“通知”というのは何ですか?

宇野
これは、「そろそろ舌のチェックをしましょう」と利用者にリマインドする機能です。チェックした結果は履歴として残るようになっていますが、前回のチェックから時間が空くと、設定で通知を出すこともできます。

安倍
不安に感じたときにいつでもチェックできるだけじゃないんですね!

利用者自身がチェックを忘れた場合にチェックを促す機能を搭載した口臭ケアサポートアプリ。こうした些細な工夫と気遣いからも、「口臭への不安を軽減したい」という両社の本気度を感じました。

口臭ケアサポートアプリが提案したいのは、ケア方法ではなく「習慣」

今後の展望

安倍
口臭ケアサポートアプリの利用者が増えれば、口臭が生む人間関係のストレスを軽減できそうですね。最後に口臭ケアサポートアプリの今後の展望を聞かせてください。

宇野
今までのオーラルケア業界は、歯磨きやデンタルフロスを使った「ケア」を提案してきました。しかし、今回のアプリでは、身だしなみの一環として自分自身の口臭ケアを気にかけて、不安になったらチェックをして口臭のリスクがある場合は口臭ケアをしてから人に会うという「新しい習慣」を提案していきたいと考えています。

安倍
確かに、口臭リスクについて確認してあれば、人とのコミュニケーションにも積極的になれそうですね。

宇野
「接客してくれる人の口臭が気になる」という生活者の意見がある以上、接客や商談に関わる従業員の口臭問題は無視できないことだと思います。「接客サービス、レストラン、添乗員、スポーツクラブ、講演会」に携わる部署を持つ企業でこのアプリを導入すれば、せっかくラグジュアリーに演出した空間が口臭で台無しになるといったことも防げるのではないでしょうか?

安倍
なるほど。口臭によるビジネスの機会損失を防止できそうですね!

宇野
はい。今は個人というよりは、接客のシーンを想定してアプリの開発を進めています。口臭ケアサポートアプリは、2018年10月現在、百貨店の接客スタッフを対象に実証実験を行っている最中ですが、将来的には口臭レベル以外のアルゴリズムも反映させて、それぞれの導入企業にフィットするアプリをリリースするのが目標です。

安倍
こんなに簡単に口臭リスクをチェックできるなら私も使ってみたいと思ったのですが、今のところは企業向けサービスという位置づけなんですね。

宇野
そうですね。一般生活者向けのリリースは、実証実験の結果を見てから検討したいと思います。

インタビューに受け答えする宇野さんの表情には、接客業界に口臭ケア習慣を提案するという固い決意と、イノベーションラボの所長としての責任感がにじんでいました。ライオンのイノベーションラボでは、所長の宇野さんが研究員に対して「私が責任を取るから、新しい物にどんどん挑戦しなさい」と指示しているそうです。「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニー」を目指すライオンは、チームでの働き方においても一歩先を進んでいるように感じられました。

“生活者の不満”をもとに開発された「口臭ケアサポートアプリ」。Ha・no・neでは今後もその動向に注目していきたいと思います。取材に協力してくださったライオンの宇野さん、インサイトテックの伊藤さん、斎藤さん、どうもありがとうございました。


▼取材協力

ライオン株式会社
公式ホームページ:https://www.lion.co.jp/ja/
〒130-8644 東京都墨田区本所1-3-7
TEL:03-3621-6211

株式会社Insight Tech
公式ホームページ:http://insight-tech.co.jp/
〒163-1333 東京都新宿区西新宿6-5-1 新宿アイランドタワー
TEL:03-3342-6710

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