歯科衛生士から銀行員に転身!? 異色の経歴を持つ穴沢有沙さんのルーツとは

2019.01.31 dhHa・no・ne編集部

異業種を経験することで見える景色

最初の医院で学んだ「トータルコーディネイト」の楽しさ

Ha・no・ne編集部 リン(以下リン)
歯科衛生士を目指したきっかけについて教えてください。

株式会社Blanche代表取締役兼歯科衛生士 穴沢有沙さん(以下穴沢さん)
私は幼い頃から母子家庭で育ったんです。高校卒業後の進路を考えていた際に3年生の時の担任だった化学の先生がすごく理解のある方で、そうした私の家庭環境を踏まえて歯科衛生士の職を教えてくれたのがきっかけですね。

歯科医院にはもちろん行ったことがありましたが、それまで深く接することがなかったからか歯科衛生士という職業のことはまったく知りませんでした。ただ、当時の歯科衛生士専門学校は2年制で、すぐにライセンスを取れるのが魅力的でした。さらに私の母校は県立の学校ということもあり授業料がすごく安かったんです(笑)。親に負担をかけず早めに資格を取って働きたいと考えていたので、歯科衛生士専門学校に入りました。

穴沢有沙

リン
そうした経緯があったんですね。確かに歯科衛生士は国家資格でもありますし、一度ライセンスを取得すればその後の職に困ることもなさそうですし。実際に歯科衛生士になって良かったなと感じたことはありましたか?

穴沢さん
新卒で最初に勤めた医院は、患者さんの治療計画を歯科衛生士が立てていました。もちろん歯科医師と相談しながら、確認しながらではありますが、患者さんに近い歯科衛生士だからこそ聞き出せることもありました。病気の歯を1、2本治すだけでなく、お口全体の健康を考えた「トータルコーディネイト」ができる環境だったので、非常にやりがいがありました。患者さんの生活環境を踏まえて治療計画を立てるなど、寄り添いながら仕事ができてすごく楽しかったです。

歯科衛生士の通常業務である歯磨き指導やSRPなどでも患者さんの変化はわかるのですが、噛めるようになるのを実感してもらえたり、笑顔になる回数が増えたりするのを実感できるとやっぱり嬉しいですよね。

リン
歯科衛生士にトータルコーディネイトを任せる医院は確かに少ないですよね。当時の穴沢さんがすごくイキイキしながら仕事に取り組んでいた様子が目に浮かびます。では反対に歯科衛生士になって苦労したことは何でしょうか?

穴沢さん
私、ネガティブなことはすぐ忘れるのですが、強いて言えば人間関係かもしれませんね。最初に勤めた医院は歯科医師4名、歯科衛生士7名、歯科技工士2名、事務が2名という中規模のところだったんですが、ディスカッションの際に部門ごとの意見の相違などは多々ありましたね。ただ、他業種が働く職場だったので、いろいろと勉強になった面も多かったとポジティブに捉えています。

毎日が新鮮で多くの学びがあった銀行員時代

銀行員時代

リン
穴沢さんの常に前向きな姿勢は私も見習いたいです。ただ、その後に歯科衛生士から銀行に転職されましたよね。まったく違う業種に就こうと考えた理由を教えてください。

穴沢さん
結果的に“銀行員だった”だけですね。当時24歳くらいだったのですが、結婚を機に退職することになって次に働く歯科医院を探していたんです。ただ、歯科医院は拘束時間が長いので家事と仕事の両立ができるか心配だと思い、違う仕事を探し始めました。

主人の母が以前東海銀行という地銀に勤めていたんです。その後、東海銀行と三和銀行が合併したUFJ銀行がさらに東京三菱銀行と合併、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)になりました。ちょうど新たな仕事を探している時期に社員の大量採用をしていた背景もあり、銀行を受けました。

リン
そうだったんですね。入ってみて歯科衛生士の仕事とは異なる新たな発見はありましたか?

穴沢さん
私の学生時代はパソコンを使う機会がほとんどなかったんです。卒論もすべて手書きでしたし、パワーポイントやエクセルを使う経験がありませんでした。実際、就職しても歯科医院で行うパソコン作業は非常に簡単な内容だけです。なので、銀行でパソコンを使って仕事をしたり、金勘定をしたりするのが新鮮でした。銀行業務はとても厳しかったのですが、全く違う世界で楽しかったです。

私は法人窓口をやっていましたが、企業の方が20件も30件も入金や振り込みをしに毎日来るんですよ。当時の私は銀行を利用する機会もあまりなかったので、そうした違う職業の一面を垣間見られることがすごく面白いなと感じました。

リン
銀行員を経験してみて一般企業では当たり前でも歯科業界ではそうでないと感じたエピソードはありましたか?

穴沢さん
最近、とある医院の先生とも話をしたのですが、“接遇”の部分ですね。歯科業界には大きい病院もありますが、個人で経営している小さい医院もたくさんありますよね。そのため、入社式もないし、名刺交換もしないし、上座下座も知らない。電話対応やメールの書き方も知らないまま業務を行っているんです。当たり前の社会人の教養は一般企業に勤めることである程度学べたかなと思います。

銀行員から歯科衛生士への復帰

他業種を経験したからこそ感じた歯科業界との違い

歯科業界との違い

リン
そうした銀行員時代にいろいろな経験をしていながら、また意外にも歯科衛生士の現場に復帰されましたよね。歯科衛生士の方は一度離れた後に復帰することは少ないと思いますが、なぜそうした決断をされたのでしょうか?

穴沢さん
せっかく取ったライセンスだったので活かしたいなと思いまして。復帰したのは28歳でブランクは4年ありました。実は銀行勤務の4年間のうちの最後の2年は知り合いの先生の医院で土曜日だけ歯科衛生士の業務をさせてもらっていたんですよ。忘れないように。取り残されるのが怖くて(笑)。

30歳過ぎてから戻ろうと思ってもなかなか復帰が難しい現状があるので、復職するなら20代かなと思ったんですね。

リン
復帰された際はどんな心境でしたか?

穴沢さん
大手医療法人に勤めることになりましたが、やはり最初は不安でしたね。歯科の材料も変わっていますし、型取りの基本の作業で手が動かなかったこともありました。ただ、勤め先が保険診療はもちろん、自費診療のホワイトニング、審美治療、インプラントなどもやっていたので、いろんな業務に携われました。いろんな患者さんに携われたことが非常に良かったかなと思います。毎日が楽しかったです。

個人情報の保護

リン
銀行員時代に習得したことで活かされたことはありますか?

穴沢さん
個人情報の保護ですね!歯科医院のカルテって個人情報の塊なんですよ。名前、生年月日、住所などが全部載っているので。銀行時代はどこに個人情報が紛れているかわからないので裏紙の利用すら禁忌でした。必ずシュレッダーをかけて帰るのが決まりだったんです。後はFAXも送信確認の立会いが必要など、そうした厳しい情報管理の現場に身を置いたことで、その意識を確実に活かせていると思います。それはずっと歯科業界にいたらわからなかったと思います。

リン
銀行員時代の経験を歯科の現場で伝えることはありますか?

穴沢さん
あまりうるさく言うのは良くないので、必要なとき以外はそこまで言いません。ただ、他業種を経験した方が入ってきた時に、多くのことを学ぶチャンスだよ!と伝えています。「歯科のこと知らないだろうから教えるのが面倒」と思う方もいるのですが、一般社会の知識を持った人が入ってくるのは貴重なことなんです。自分たちが変われるチャンスですから。

矯正治療の理解が患者さんのために

担当になり実感した「矯正治療が最大の予防」であること

矯正治療

リン
穴沢さんは患者さんに対して非常に思い遣りがあると思いますが、ご自身が考える良い歯科医院と悪い歯科医院の違いは何でしょうか?

穴沢さん
最近は少し変わってきていると思いますが、医療従事者の中には患者さんに対して上からの姿勢の人も一定数います。そうした歯科医院はあまり良くないですよね。やっぱり患者さんの声を聞けるかどうかが大切だと思います。初診の際にカウンセリングをしたり、治療後にも時間を取って今後の予防について話したりコミュニケーションを取ることが重要です。それも一方的に伝えるのではなく、患者さんの意見を聞き出したうえで今後を提案してくれる人が良い歯科医院だと思います。

歯科の場合、虫歯などに罹ると複数回通わなければならないですし、お金もかかりますよね。だからこそ病気を未然に回避する予防が重要だと思います。そういう意味では今携わっている「矯正治療は最大の予防」なんですよね。

リン
なるほど!すごく良いことを教えていただけました。穴沢さんは矯正の歯科衛生士としても働いた経験があるかと思いますが、その経緯を教えてください。

穴沢さん
矯正治療に携わることになったのは偶然だったんです!大手医療法人に入って間もなく矯正を担当していた先輩が退職することになったんです。その空いたポストに私が就くことになったというだけなんですよね(笑)。そこからは毎日勉強です。学生時代の教科書を引っ張り出してきて復習しました。そして、医院でインビザラインを使用したマウスピース矯正に力を入れていたので、いろいろな情報を得ることができました。

矯正治療を理解したからこそ提案できる「根本治療」

根本治療

リン
矯正の歯科衛生士になってどんなことを学びましたか?

穴沢さん
矯正治療の概念を知るまでは言わば、対症療法の考え方しかなかったんです。たとえば歯並びが悪い状態で被せ物を入れてもあまり持ちが良くありません。また、虫歯になってしまうこともあります。「矯正治療は敷居が高い……」と思い、患者さんに歯並びを治すことを提案していない歯科医院があるのも事実です。

ただ、矯正治療を理解してからは「根本治療ができる!」と思いました。奥歯でしか噛まない患者さんあれば、その箇所ばかりに負担がかかって将来的にダメージがあることを伝えられるんです。必要な情報を適切に提供できることが医療従事者としてすごく嬉しいことでもあります。本当に矯正治療に携わって良かったと思います。

リン
やっぱり話を聞いていると、穴沢さんの根本には患者さんのためにという想いがありますよね。歯科衛生士として患者さんにとってどんな存在でありたいですか?

穴沢さん
患者さんがお口の健康だけでなく日々の悩みまで何でも相談ができる歯科衛生士でありたいと思います。実は普段の悩みが口の中でトラブルとして現れることがあるんです。ストレスで過食だと糖の摂取量が変わったり、ホルモンバランスが悪くなったりするので、口の中を見るだけで患者さんの現状の色んなことが見えてくるんですよね。そこから情報収集して良いお手伝いができたらなと思っています!

穴沢さんの話を聞いていて、「そうした意図はなかった」「周りの良い影響を受けて」という言葉が印象に残りました。これまで辿ってきた道程には確固たる意志に基づいた行動は少なかったように思えますが、すべての環境でベストを尽くし、なおかつ何事も常に楽しむ姿勢が現在の穴沢さんの礎を築いたのでしょう。独占インタビュー第2弾では、穴沢さんのマウスピース矯正研修講師としての活躍ぶりに迫ります。

>>マウスピース矯正研修講師編に続く

▼取材協力

株式会社Blanche
ホームページ:http://dh-blanche.com/

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