“口腔外科専門医”が語る口腔がんの実情 恐ろしい末路と今からできる対策とは

2019.04.02 interviewHa・no・ne編集部

口腔外科専門医にインタビュー!口腔がんとは

2週間以上治らなければ受診を。ステージ1なら5年生存率も95%

藤川孝先生

Ha・no・ne編集部 リン(以下リン)
堀ちえみさんの告白によって大きな注目を集めるようになった口腔がんですが、最初は「ただの口内炎かな」と気にも留めないケースもあるそうです。口内炎と口腔がんの見分け方はありますか?

医療法人社団 惺慧会 ふじかわ歯科クリニック 院長 藤川考先生(以下藤川先生)
初期の段階だとほとんど区別がつかないと思います。ある程度の大きさになれば見ただけでわかりますが、一般の方が初期の段階で判別することは難しいでしょう。

リン
なるほど。初期の段階だと口内炎だと思うこともあり得るということなのですね……。では、異変を感じた際にどのくらい経過をみればいいのでしょうか?

藤川先生
普通の口内炎であれば、どんなに長くても2週間くらいで治ると思います。痛みが3日間くらいあって、痛みはなくなったけど、ただれているという状態が続きますが、トータルで長めに見積もっても2週間くらいで治るのが一般的だと言えます。

リン
では2週間以上治らず、ずっと痛みが続くようであれば口腔がんを疑うべきなのでしょうか?

藤川先生
口腔がんだけではなく、他の病気も含めて、「ただの口内炎ではない」と認識していただくといいと思います。そういう場合は自分だけで判断せずに一度、歯科医院で診てもらうことをおすすめします。

リン
実際に口腔がんになった場合、どんな症状が現れるのでしょうか?

藤川先生
口腔がんの症状自体、実はさまざまなパターンがあります。薄皮が1枚剥がれたようなタイプや、いわゆる潰瘍で掘れるタイプも。他にはおできのように膨れ上がるタイプやブツブツとした形になるタイプなど……さまざまなタイプがあるので、一概にこういう形になるとは言えないですね。ただ、掘れていくタイプの潰瘍型が一番多いように思います。口内炎のように浅く掘れて、周りが少し硬くなって、硬結(こうけつ)が触れる状態になると、がんの疑いが強くなります。

リン
そんなに多くのパターンがあるのですね。一番多い潰瘍型の場合、大きさはどのくらいになるのでしょうか?

藤川先生
先ほどお伝えした通り、ある程度大きくならないと口内炎との区別はつきません。ただ、ステージ1、いわゆる初期の段階でも、首のリンパ節への転移がなければ大きさ2cmまでとされています。

リン
え、ステージ1で2cmですか!?2cmの口内炎となるとかなり大きいですよね?

藤川先生
そうなんです。なので、そのくらいの大きさになれば、「がんじゃないの?」と気づけると思います。ステージ1の段階でも診る人が診れば異変に気づくと思うので、そこから判断や治療を先延ばししてしまうことが問題だと考えています。ステージ1だと生存率は95%なので。ただ、ステージ1よりも手前のすごく小さい初期の段階で、上皮内がんなどの段階の場合は、診ただけでは判断できないですね。

リン
非常に勉強になります。では「気づいたらかなり進行していた」というケースはあまりないのでしょうか?

藤川先生
レアなケースだと思いますよ。もちろん患者さんのそれぞれの状況にはよりますし、個人差もあります。ただ、堀ちえみさんのようにステージ4は相当です。大きさだけでもわかりますし、すぐ血が出るとか、ただの口内炎にしてはやたら汚らしい感じもするので、ビジュアルに訴えかけてくるものがまったく異なると思います。

リン
やはり口腔がんになると、見た目も結構グロテスクな感じになるのですね……。それは非常に怖いですね。

藤川先生
そうですね。なので、患者さんも診る側も判断を先延ばししてしまってはダメなのです。診る人が診ればきちんと判断できますし、しっかりと検査をすればすぐわかることだと思います。早期発見が何よりも重要になります。

リン
ちなみに堀ちえみさんの一連の報道については、歯科の先生方の間でも話題になりましたか?

藤川先生
そうですね。僕の周りはやはり口腔外科専門医が多いので、話は出ましたよ。我々としても改めて早期発見への意識が高まりましたね。

口腔がんになる原因や罹りやすい人の特徴とは?

口腔がんについて

リン
早期発見が重要な口腔がんですが、罹患する原因についても教えてください。また、なりやすい人の特徴についてもお聞きしたいです。

藤川先生
まず、原因として挙げられるのが飲酒・喫煙ですね。タバコは間違いなく良くないと言えます。後は、歯の健康に問題点がある人も気をつけるべきでしょう。虫歯もそうですし、歯がなくなった箇所をそのまま放置しておくことも口腔がんのリスクを高めることにつながります。歯がない箇所があると、舌の当たり方も当然変わりますし、虫歯で欠けてしまって歯が尖っていたら、それも舌を傷つけて発がんのリスクになりますね。

リン
なるほど。では口腔内の衛生面をしっかり整え、日々のケアを徹底することが大事ということでしょうか?

藤川先生
そうですね。口の中の状態に興味がない人は、割と悪い状況を放置しがちだと思います。なので、そういう意味ではお口のケアを怠り、汚れた状態でいる人は口腔がんになりやすい傾向にあるかもしれませんね。後は、ウイルスが関係しているという説もあります。これは自分でコントロールすることは難しいですよね。

リン
そうなのですね。口腔内は年齢とともにだんだん悪化しやすくなるとよく聞きますが、それに伴って口腔がんも年齢を重ねていくにつれて罹患しやすくなるのでしょうか?

藤川先生
年齢的には40代以降が急に多くなるとは言われています。それはやはり歯が抜けたり、口の中のトラブルが多くなってきたりする年代とリンクしていると思います。しかし、20代の患者さんもたくさん診てきたので、一概に言えることではありません。歯並びもキレイでお口の中も清潔に保っていたとしても、罹患する人はいるので、その点は注意が必要です。お口の中が健康で清潔であることにこしたことがありませんが、だからといって口腔がんに絶対に罹らないとは言えません。

リン
ちなみに小児で口腔がんになることはあるのでしょうか?

藤川先生
いるとは思いますけど、正確な数はわからないですね。肉腫などはあらゆる年代で発症するので注意が必要だと思います。

リン
なるほど。では今話題になっている舌がんは、割とご年配の方の方が多い病気なのでしょうか?

藤川先生
そうですね。そういうケースが多いと思います。

末期の口腔がんの恐ろしさとは

想像以上に悲惨な末期の口腔がん

末期がん

リン
口腔がんの末期は見た目も含め、具体的にどのような状態になるのでしょうか?

藤川先生
治療していないケースで言えば、正直かなり悲惨な状況ですよ……。たとえば、胃がんで胃に半分穴があいたていても、外からは見えませんよね。しかし、口腔がんは症状がひどくなれば口元の外見にも影響するので、そういった意味では見た目として悲惨ですよね。

リン
目で見てわかるほどなのですか……?

藤川先生
溶けて腐るというか、がんに蝕まれて組織がなくなっていく状態になりますね。舌も半分崩れた形になりますし、そこから腐敗臭がすることがあるでしょうし……。

リン
うわ……。見た目に加えて臭いもですか?

藤川先生
はい。臭いもかなり強くなると思います。かなり悲惨な状況ですよね……。

リン
想像しただけで怖いです……。そのようになった場合は手術して切除する治療が必要になるのでしょうか?

藤川先生
はい。ステージによって標準治療がすべて決まっています。口腔がんに関しては外科治療が選択されることが多いとは思いますが、それもステージに合わせて適した治療を行います。

リン
今回の報道によって口腔がんについての関心が高まっていますけど、近年で増えている傾向などはありますか?それとも罹患率などは昔からずっと変わらない感じでしょうか?

藤川先生
もちろん昔からありましたし、がん全体の中で口腔がんが占める割合としては、あまり変わっていないと言われていますね。ほんの1%とか1.2%とか、そのレベルです。

リン
そうなんですね。では特に最近になって増えたという訳ではないのですね?

藤川先生
がん患者の数が増えているということなので、パーセンテージが変わらないだけかもしれません。そもそものがん患者の母数が増えれば、1%の割合でも数自体は増えますよね。

ステージが進行するにつれて低下する生存率

転移について

リン
ちなみに口腔がんになると、リンパ節にも転移しやすいのでしょうか?

藤川先生
そうですね。遠隔転移よりもリンパ節転移の方が多い傾向にあります。口腔がんがいきなり遠隔転移することはあまりないみたいで、首のリンパ節に転移することが多いですね。その段階になると、もうステージ1ではなく、ステージ3以降の状態ですね。リンパ節転移があるかないかというのが、予後に非常に大きな影響を与えると思います。

リン
それは進行度によってどんどん転移しやすくなるということでしょうか?

藤川先生
そうですね。原発巣が大きくなればそうなりますし、原発巣が小さくて取ったと思っても、実はリンパ節に転移していたということもありますね。

リン
がんのステージ4というと死に至るというイメージがありますが、口腔がんのステージ4も実際死に至るケースはあるのでしょうか?

藤川先生
5年生存率は60%程度とされています。全病期の5年生存率が70%で、ステージ1に限定すると95%になります。そのため、ステージ4にまで進行すると5年生存率は低くなりますよね。それも5年ですから。治療して退院して様子を見ていたら……5年なんてあっという間ですよね。

リン
確かにそうですよね。本当に深刻な問題なんですね……。

藤川先生
ただ、新しい抗癌剤や治療法の研究もあり、決して死の病のイメージではなくなってきています。

リン
そうなんですね。では、舌がんのステージ4になった場合、手術で舌を切除して再建したとしても、やはり普通にお話したり、食事をしたりすることは難しいのでしょうか?

藤川先生
そうですね。話すことに関しても、聞き取りにくくなることもあります。舌を大きく切除した部分を再建した組織は、残った舌がよじれるのを抑えておくもので舌が完全に元通りに動く訳ではありません。それこそ残った舌で嚥下したり、話したりする訓練が必要になります。

リン
手術後も大変ですね……。舌がん以外の口腔がんだとどうなるのでしょうか?

藤川先生
たとえば歯肉がんだと、歯肉だけではなく骨まで浸していたら、その骨まで削ることになります。そのため、元通りにするにはかなり長い道のりだと言えますよね。だからこそステージ1で異変を見つけなければならないのです。先ほども話した通り、診られる方も診る方も無意味な経過観察を続けてはいけないということに尽きると思います。

口腔がん検診による早期発見を

口腔がん検診で“口腔外科専門医による正確な診断”を

口腔がん検診

リン
早期発見するためには、やはり口腔がん検診を受けるのが最善の策でしょうか?

藤川先生
そうですね。今がん検診に力を入れている医院も多いと聞きますし、細胞診といって、疑わしい部分(口内炎など)にはグリグリッと表面の細胞だけとって顕微鏡で覗くという検診に力を入れているところはあるみたいです。

ただ、細胞診自体は慣れた人がやらないと細胞が足りないこともあるため、検査にならないケースもあるので、口腔外科専門医が1回や2回レクチャーをしても一般の歯科医師がしっかりスクリーニングできるかという点については今後の課題だとは思っています。

リン
そうなのですね。口腔がん検診自体、どの歯科医院でも簡単にできるという訳ではないんですね……。

藤川先生
はい。なので、手前みそですが、口腔外科専門医がいるところ診てもらうのが最善だと思います。ただ、口腔外科専門医は大学病院に偏在していてなかなか開業医が少ないのが現状ですが……。

リン
藤川先生は口腔外科専門医で開業もされていますが、やはり検診を希望される患者さんはたくさんいるのでしょうか?

藤川先生
そうですね。堀ちえみさんのニュースが報道されてからは、本当に多くの患者さんが来院されました。たくさん診ましたが、口腔がんに罹っている人は幸いにも1人もいなかったですね。開業してから今までもたくさんの方の口の中を診てきましたが、がんを発見したケースはそんなに多くはないです。

リン
なるほど。検診してがんではなかったら、それだけで安心できますもんね。

藤川先生
はい。とにかく無意味な経過観察をせず、病理組織検査をすればすぐわかるということを覚えていただければと思います。もちろん、僕も様子をみることはあります。粘膜にただれはあるものの、経験上癌に見えない時などです。ただ、先ほど話したようにあまり長期間治らない場合は、病理組織検査をして陰性であることを確認することを徹底していますので、ご安心ください。

リン
では、まずは口腔外科専門医がいる歯科医院で検査をすることが大事ということですね。ちなみに口腔がん検診を受ける場合、保険は利きますか?

藤川先生
がんの疑いとしての検診は保険でまかなえます。

患者さんだけでなく歯医者もお口への意識を高く持つことが鍵

ふじかわ歯科クリニック

リン
口腔内の病気で、口腔がん以外でもっと怖い病気はありますか?

藤川先生
上皮性の悪性腫瘍ががんで、これに対して非上皮性の肉腫や黒色腫などは、口腔がんよりも予後が悪いと言われています。

リン
がんより予後が悪いのですか……。

藤川先生
黒色腫は特に予後が悪いですよ。ホクロかなと思ったらみるみるうちに黒い腫瘍が広がって、検査してメスを入れる刺激だけでもっと広がったりします。疑いがあったらかなり広範囲で取らなくてはいけないので、がんよりたちが悪いですね。ただ、罹患するパーセンテージとしてはかなり低いと言えます。宝くじが当たるくらいの確率なので、それを恐れて生活することはないと言えます。

リン
ということは、定期的に通って自分のお口の中に関心を持つことがとにかく大事なのですね。

藤川先生
そうですね。本当それに尽きると思います。予防と言っても飲酒と禁煙を適度に抑えるくらいしかないので、定期的に歯科医院に行って歯石取りのついでにお口の中を診てもらうのが一番ですね。

リン
確かに歯石取りだけでなく、ついでに診てもらうのは良いですね。お口もきれいになりますし!

藤川先生
はい。そのためにも、歯石取りのついでに全体を見回すという点では、歯医者としても意識を高めなければいけないですね。今の世の中的にも、歯医者は虫歯だけ診ていれば良い時代ではありませんし……。

リン
なるほど。患者さんも歯医者さんも、意識を高めることが大事なんですね!

藤川先生
そうですね。ホームドクター、かかりつけの歯医者というのは、患者さんの健康をトータルに診られることが非常に重要だと思います。

リン
Ha・no・neとしてもその意識向上に向けて世の中に発信していきたいと思います!本日は貴重なお話をありがとうございました。

▼取材協力

医療法人社団 惺慧会 ふじかわ歯科クリニック
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公式HP:https://www.fujikawa-shika.com/

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