【歯の白と黒の歴史トリビア 第1回】実はあの偉人も虫歯だった!?

征夷大将軍として世を治めても、歯の痛みは治まらなかった源頼朝

鎌倉に幕府を開き、日本で初めて武士の世を築き上げた征夷大将軍・源頼朝。圧倒的戦力差のあった平氏に1度は滅亡寸前まで追い込まれながら、しぶとく生き残り徐々に戦力を拡大。最終的に壇ノ浦の戦いにて平氏を滅ぼした非常に優秀な人物……なのですが、弟にして平氏打倒の功労者、現在でも多くの人から愛されている源義経を討伐したことから、あまり人気が高くないのが悲しいところ。

そんな頼朝ですが、最期についてはハッキリとわかっていません。一般に知られる落馬説から、糖尿病説、脳梗塞説、暗殺説など諸説あり、真相は謎に包まれています。しかし、確実に言えるのは、「頼朝は歯周病に苦しんでいた」ということです。その記録は、鎌倉時代に作成された歴史書『吾妻鏡』に残されています。

『吾妻鏡』によれば1194年8月22日に「将軍家聊か御不例、御歯労と。これに依り雑色上洛し良薬を尋ねらると」とあり、同年9月26日には「歯の御労の事、療治を京都の医師に尋ねられんが為、態と飛脚を立てらるる所なりと」という記載があるなど、頼朝が歯の病に苦しみ、治療法を京都の医師に尋ねていることがわかります。

歯周病は頼朝の死因の1つと考えられている糖尿病や脳梗塞とも密接に関係しているため、頼朝の命を奪った原因の根底にはお口の不健康があったのかもしれません。頼朝ほどの勇ましい武家の棟梁であっても、歯周病には勝てなかったのです。

誰もが知っている天下人、豊臣秀吉は晩年歯がなかった!?

農民の身分から織田信長に仕え、怒濤の立身出世。信長亡きあとは彼に変わり他大名を次々と打ち滅ぼし、遂には天下人の地位にまでたどり着いた人物――そう、誰もが知る太閤・豊臣秀吉です。大阪城に居を構え、絢爛豪華な暮らしをしていたとされる秀吉ですが、実は彼も歯の病気に悩まされていたことが分かっています。

その証拠は、他ならぬ秀吉の「歯」です。秀吉が祀られている京都の豊国神社には、秀吉の生前に抜け落ちたとされる歯が1本保管されています。医学博士である堀準一氏の調査によって、この歯は上あご左部分の奥歯であり、表面は全体が歯垢でびっしり覆われていたことが判明。表面すべてが歯垢で覆われているということは、周りに他の歯がなかったことの証明となり、秀吉が歯周病にかかっていたことがわかりました。

この歯は残っていた最後の1本だったと考えられることから、晩年の秀吉は歯がなく、お粥程度のものしか食べられなかったのではと言われています。せっかく天下人となっても食べたい物が食べられなかった秀吉は、さぞ無念だったでしょう……。

それはそうと、なぜ歯が保管されていたのか気になりますよね。これは生前に秀吉が子飼いの武将であった加藤嘉明という人物に、形見として預けたからなのです。嘉明が歯垢のびっしりついた歯をもらってどう思ったかは知るよしもありませんが、おかげで数百年後に自分のお口の状態が多くの人に知れわたることになるとは、さすがの秀吉も予想しなかったかもしれませんね。

誰もがお口のケアをできる時代、いつまでも歯を大切にしよう

源頼朝や豊臣秀吉のように日本を統一した権力者であっても、当時は満足なお口のケアをすることができず、虫歯や歯周病に苦しんでいました。そう考えると、誰もが自由にお口のケアをできる現代は、非常に恵まれていますよね。せっかくそんな時代に生まれたのだから、しっかりとケアをして、お口の病気を防ぎたいものです。

今回の「歯の白と黒の歴史トリビア」はここまで！ 次回は数百年前に考えられていた虫歯の原因について迫りたいと思います。更新をお楽しみに！

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【ライター紹介】 M

「文章を書く仕事がしたい」という想いから、ライター業を志したToo shy shy boy。「人生を無駄遣いしている」と揶揄されるほど、引きこもりがちで内気な性格からは想像できない“執筆への情熱”を併せ持ち、編集プロダクションなどを経てWebライターの職に就く。Ha・no・ne編集部では歴史好きな側面を活かし、歯と歴史を絡めた「歯の白と黒の歴史トリビア」を連載中。趣味は欧州サッカーや海外ドラマを見ることであり、土日は昼夜逆転の生活を送ることもしばしば。

Twitter：ムートー
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