【歯の白と黒の歴史トリビア第3回】昔の西洋の入れ歯は劣悪品だった？
時代の最先端にいた西洋においても、昔の入れ歯の出来は……
西洋と聞くと他の地域と比べて早くから近代化を実現したため、華やかな街並みや発展した文化を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。西洋で作られた入れ歯なら、現代の入れ歯には及ばずともそれなりの完成度なのではないかと考えるも少なくないでしょう。しかし、残念ながら昔の西洋の入れ歯は、機能的にも審美的にも相当な劣悪品だったのです。
そもそも入れ歯自体は、古代エジプトや古代ギリシャの時代にはすでに存在していました。ただし、当時は奴隷から抜いた歯を使用してブリッジを作成するなどといった、非衛生的かつ非人道的な手法が採用されていたと言われています。とても現代では考えられない方法ですよね。
入れ歯の文化が西洋に大きく広まったのは、18世紀に近代歯学の祖とされるフランス人歯科医師、ピエール・フォシャールが執筆した『歯科外科医、もしくは歯の概論(原題:Le Chirurgien Dentiste, ou Traité des dents)』という書籍がきっかけでした。この書籍には入れ歯についての情報が事細かに記されており、歯科学の進歩に大きな貢献を果たしたのは間違いありません。しかし……。
アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンは入れ歯に苦労していた!?
簡単に言えば、『歯科外科医、もしくは歯の概論』に記されている入れ歯は、まったく実用的なものではありませんでした。というのも、入れ歯製作のために用いられた素材は金属や象牙、カバの歯など、今ではとても考えられないものばかり。カバの歯を口に入れるなんて、考えたくもありませんよね……。もちろん質は非常に悪く、お世辞にも使い心地はよくなかったそうです。
この入れ歯を使用したとされる人物が、アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンです。ワシントンは若いころから歯周病に悩まされ、57歳の時には左下の前歯1本しか残っていなかったと言われています。民衆の前で毅然と演説を行う大統領がもし“歯抜け”だったら、格好がつきませんよね。
そのため、質の高くない入れ歯を使用することになったのですが、この入れ歯、素材が素材のため、臭いの強烈さもさることながら、油断しているとすぐに口から飛び出てしまうという困った特徴がありました。そのため、ワシントンは1ドル紙幣の肖像画のように、常に意識してしっかりと口元を閉めておく必要があったのです。こうした入れ歯の影響もあってか、晩年のワシントンは積極的に人に会おうとはしませんでした。
将来入れ歯生活にならないためにも、しっかりとお口をケアしよう
ジョージ・ワシントンは口腔内ケアなどの発想がなかった時代を生きていたため、歯磨きの習慣がなかったと言われています。その結果、歯周病によって歯を失い、アメリカ大統領というこれ以上は望めない地位までたどり上り詰めたにかかわらず、晩年は食事も会話もうまくできませんでした。
当時に比べ、現在は入れ歯の技術が格段に進歩しているため、間違ってもしゃべるたびに入れ歯がお口から飛び出るなどといった事態は起こらないでしょう。しかし、入れ歯の技術が進歩したからといって、入れ歯に頼る生活はできれば避けたいところ。歯周病で歯がほとんど抜けてしまったワシントンのようにならないためにも、常日頃からしっかりとお口のケアをしていきましょう。
今回の「歯の白と黒の歴史トリビア」はここまで！次回の更新をお楽しみに！
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【ライター紹介】 M
「文章を書く仕事がしたい」という想いから、ライター業を志したToo shy shy boy。「人生を無駄遣いしている」と揶揄されるほど、引きこもりがちで内気な性格からは想像できない“執筆への情熱”を併せ持ち、編集プロダクションなどを経てWebライターの職に就く。Ha・no・ne編集部では歴史好きな側面を活かし、歯と歴史を絡めた「歯の白と黒の歴史トリビア」を連載中。趣味は欧州サッカーや海外ドラマを見ることであり、土日は昼夜逆転の生活を送ることもしばしば。
Twitter：ムートー
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
レビュー記事ランキング
コラムカテゴリ
お悩み相談Q&A
