【歯の白と黒の歴史トリビア第4回】 日本の入れ歯の歴史

2017.11.29 healthHa・no・ne編集部M

非常に質が高かった日本独自の木床義歯

木床義歯

昔の西洋の入れ歯は、カバの牙や象牙、他人の歯などを使用していたため、質がとても悪かったと前回説明しましたよね。これを聞くと、西洋に比べ文明的に後れをとっていた当時の日本では、より劣悪な入れ歯を使用していたはずと想像する人がきっと多いでしょう。ところが、日本では西洋よりはるかに以前から、良質な入れ歯を使用していたのです。

現存している昔の日本の入れ歯で有名なものといえば、和歌山県願成寺の尼僧、仏姫の木床義歯でしょう。1538年(室町時代)に仏姫が亡くなるまで使用していたとされる木製の入れ歯は、黄楊(つげ)を素材に製作されていました。黄楊は肌触りが良いだけでなく、強く割れにくいという特徴を持っていたため、入れ歯の素材にはうってつけだったのです。

仏姫の入れ歯は現在の総入れ歯同様、陰圧で顎の粘膜に吸着する原理を利用していたため、昔の西洋の入れ歯に比べ実用性はとても高いものでした。実際に仏姫の入れ歯は奥歯の部分がすり減っており、問題なく食事ができていたことが伺えます。

また、1999年8月、三重県四日市から出土した江戸時代のものとされる木床義歯の入れ歯も、仏姫のもの同様非常に作りが精巧であり、問題なく食事ができていたことが推察されています。西洋が劣悪な入れ歯によって食事も満足にとれず苦しんでいる一方、日本では高い入れ歯の技術により歯を失った後でも、食事を楽しむことができていたのです。

昔の日本には「入れ歯師」という職業があった!

入れ歯師

ではなぜ昔の日本は西洋に比べて入れ歯の質が高かったのでしょうか。その答えは「入れ歯師」と呼ばれる職人の存在です。入れ歯師はもともと仏像などを彫る仏師や根付師(細密な彫刻が施された、提げものが落ちないための滑り止めを作る人)が、鎌倉時代あたりから副業として入れ歯を作り出したのが始まりとされています。最初は小遣い稼ぎ程度だったようですが、次第に本業よりも需要が高まっていき、江戸時代になると「入れ歯師」として広く活動をするようになりました。

この入れ歯師、簡単になれるものではなく、親方に弟子入りをして修業を積み、一人前となった証しとして免許をもらうことで初めて独立が許されるものだったのです。入れ歯の製造方法は秘伝とされ、弟子以外が知ることはできません。このあたりは、非常に職人らしさが漂っていますね。

厳しい修行を積んだ入れ歯師が製作する入れ歯は、とても精密だったと言われています。蝋型によって顎の型採りをし、食紅によって細かい調整をしていく手法は、使う器具などに差があるものの現代の入れ歯製造に近いものでした。なかには、入れ歯の裏側に消臭作用のある金箔を塗り、口臭を抑えようとする入れ歯もあったのだとか。当時の職人たちの技術がいかに高かったかを物語っていると言えるでしょう。

日本の入れ歯の技術は健在!ただし、大事なのは入れ歯に頼らないこと

歯を確認する女性

入れ歯師の存在もあり、昔の日本で使用されていた入れ歯は非常に質の高いものでした。もちろん、日本における入れ歯の質の高さは現在も変わっていません。たとえ歯周病などの病気や不慮の事故によって歯が抜けてしまっても、早い段階で歯科医院を受診しておけば、入れ歯によって食事などを楽しむことはできます。

しかし、入れ歯よりも自身の歯を健康に保つ方が望ましいことは言うまでもありません。大切なのは入れ歯に頼らなくて済むように予防を心がけること。そのために日ごろのお口のケアや、歯科医院への定期検診をしっかりと行うようにしてください!今回の「歯の白と黒の歴史トリビア」はここまで!次回の更新をお楽しみに!

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【ライター紹介】 M

M

「文章を書く仕事がしたい」という想いから、ライター業を志したToo shy shy boy。「人生を無駄遣いしている」と揶揄されるほど、引きこもりがちで内気な性格からは想像できない“執筆への情熱”を併せ持ち、編集プロダクションなどを経てWebライターの職に就く。Ha・no・ne編集部では歴史好きな側面を活かし、歯と歴史を絡めた「歯の白と黒の歴史トリビア」を連載中。趣味は欧州サッカーや海外ドラマを見ることであり、土日は昼夜逆転の生活を送ることもしばしば。

Twitter:ムートー
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