虫歯予防に最適?日本人がしていた「お歯黒」とは
歯を真っ黒にする化粧法であるお歯黒とは
お歯黒はその名の通り、歯を真っ黒に塗るお化粧法です。江戸時代の既婚女性がしているイメージがあるかもしれませんが、古くは縄文時代や弥生時代にもその痕跡があったとされています。お歯黒がどんな意味を持っていたのか、時代別に見ていきましょう。
平安時代
貴族の女性の身だしなみとして流行っていましたが、次第に男性も真似をするようになり、平安末期には武士もお歯黒をしていたと言われています。さらに室町時代になるとお歯黒は一般的にも広まっていきました。
戦国時代
お歯黒は成人の証しとなり、政略結婚の際に10歳前後の子どもにお歯黒をしてお嫁に行かせていました。また、戦場で首を打たれることを想定し、見苦しくないようにとお歯黒をして戦に臨む武士もいたようです。
江戸時代
男性がお歯黒をする習慣はほとんどなくなり、その姿は既婚女性の象徴になりました。「黒」は何物にも染まらないということで、貞操を守るという意味もあったようです。遊女や芸者がお歯黒をすることもありました。
幕末以降
外国人が訪れ情報交換が盛んになるにつれて、お歯黒は野蛮な行為だと考えられるようになります。外国から見ると、歯を真っ黒に塗った姿は異質だったでしょう。その後、既婚女性と未婚女性を分けるのは女性蔑視になるとされ衰退していきました。
お歯黒は何でできているの?
お歯黒は歯を染めているのではなく、歯の表面の凹凸に染料をしみ込ませているだけのものです。そのため、常に真っ黒な状態を保つために2日に1回は塗りなおしていたようです。使われる染料は酢の中に酒、米のとぎ汁、鉄を溶かして作った茶色の液体「かね水」と、タンニンを多く含む「五倍子粉(ふしのこ)」。これらを筆や楊枝を使って交互に塗ります。かね水に含まれる酢酸第一鉄と五倍子粉のタンニン酸が結合することで、黒く染まる仕組みになっていました。
かね水はかなりの悪臭がするので、当時は毎日我慢して塗っていたようです。今も昔も、何としてでもオシャレしたいという想いは変わらないものですね。
お歯黒が虫歯予防に最適な理由
歯を真っ黒に塗るお歯黒は、見た目からすると健康にあまりよくなさそうですよね。ところが、昔の人の骨を調べるとお歯黒の歯には虫歯がほとんどなく、あったとしてもお歯黒をし始めた時期から進行が止まっていたとの見解もでているのです。反対にお歯黒をやめた時代から虫歯は増えていったと言われています。そんなお歯黒が虫歯予防に最適だと考えられるのは、以下の3つの理由からです。
理由1:「五倍子粉(ふしのこ)」がプラークを抑制
1980年代の研究で、五倍子粉がプラークの形成を抑える作用があるということがわかりました。またタンニンは歯のタンパク質に反応して固まるため、エナメル質が酸で溶けてしまうのを防ぐ働きがあります。
理由2:「かね水」が歯を丈夫に保つ
かね水に含まれる酢酸第一鉄は歯や骨の基本成分となるリン酸カルシウムを強化します。そのためエナメル質を酸から守り丈夫にしてくれる働きがあります。
理由3:こまめに歯のお手入れをする必要があった
お歯黒の染料は、歯の汚れをきちんと取り除いておかないとキレイに染まりません。そのため、当時の女性たちは色むらを防ぐために毎日丹念に歯を磨いていました。細かな部分の汚れもきちんと落としていたからこそ、虫歯の進行を防ぐことができたと考えられます。
現代の虫歯予防で行われているサホライド塗布も、お歯黒をヒントに開発されました。こういった予防歯科的な観点が実は欧米より早く実践されていたなんて、歯科の歴史から見てもビックリですね。
お歯黒は歯を守る合理的な手段だった
日本に古くからあった伝統的なお歯黒。オシャレや身分をあらわすだけではなく、歯を守るという大きな役割を持っていました。現代ではさすがに歯を真っ黒にするのは勇気がいりますが、歯を隅々まで磨くなどの虫歯予防のポイントはぜひ真似しましょう。